テクノロジーで警備業界を変革する——。セキュリティDXに挑む「AIK(アイク)シリーズ」の実力

「AI×人」でこれまでにない警備を実現するべく、警備業界への本格参入を果たしたエルテス。2017年に100%子会社のエルテスセキュリティインテリジェンス(以下、ESI)を立ち上げると、2020年の12月には、48年の歴史をもつ警備会社・アサヒ安全業務社の完全子会社化を発表。時を同じくして、ESIとしての最初のサービスとなる「AIK order(アイク・オーダー)」の提供を開始した。その後も、AIK sense(アイク・センス)やAIK prepaid(アイク・プリペイド)など、新しいサービスのローンチがつづくAIKシリーズだが、その視線の先にあるものは、一体どんな未来なのだろうか。同シリーズにかける思いやサービスの詳細、そして展望について、エルテスの警備事業部の島嵜直樹に聞いた。

警備会社探しから、契約、実施報告までがオンラインで完結できる「AIK order」

──まずは、シリーズ名である「AIK」の由来について教えてください。

島嵜 AIはご存じの通り人工知能を指す言葉で、KのほうはKEIBI(=警備)の頭文字。つまり、「AIやデジタルの要素を組み込んだ警備を提供する」という意味を込めて、「AIK」と名付けています。シンプルなネーミングですが、その分、わたしたちの意図は伝わりやすいのではないでしょうか。

──そのAIKシリーズの第一弾となったのは、2020年12月に提供をスタートした「AIK order」でした。どのようなサービスなのか、あらためてご説明いただけますか?

島嵜 簡単にいえば、個人や企業など警備を依頼したいお客様と警備会社とをつなぐマッチングプラットフォームです。サービスの利点は、チャット機能を使って気軽に案件の相談ができるほか、インターネット上でそのまま契約まで行えること。警備依頼者と警備会社とが、時間や場所を選ばずにコミュニケーションを取ることができるので、効率のよさは抜群です。

また、「AIK order」には多くの警備会社が登録されているため、緊急の案件に対しても柔軟に対応することができます。たとえば、急に警備が必要となった場合、既存の取引先警備会社で対応しきれないケースも少なくありません。そんなときに「AIK order」を利用すれば、対応可能な警備会社を簡単に探せるのです。

一方で警備会社の側には、“プラットフォームに登録するだけで、新規案件を獲得する機会が増える”というメリットがあります。加えて、「AIK order」を通じてエンドクライアントと直接つながれば、警備業界にありがちな多重下請け構造による利益率の低下も改善できる。このように、警備依頼者と警備会社の双方にメリットがあるサービスとなっています。

▶AIK orderのサービスページ:https://aik-order.com/
▶AIK order警備依頼者向けページ:https://aik-order.com/lp/customer/

──他社が展開するマッチングサービスと比べたときの「AIK order」の強みはなんでしょうか。

島嵜 「AIK order」では、警備依頼者と警備会社のマッチングをサポートするだけでなく、マッチングが成立したあとも、警備業務にまつわる両者の課題を解決するソリューションを提供しています。

例をあげるなら、書類のやりとりの効率化もそのひとつ。警備会社が依頼者と警備業務の契約を締結する際には、定められた事項を記載した契約前後書面や警備報告書といった書類を依頼者に提出しなければならないのですが、現状ではその多くが紙の書面でのやりとりになっています。そのため、書類の確認や契約の締結の際は、出社しての対応が必須でした。

しかし、「AIK order」では、クラウド上で書類を作成し、ワンボタンで相手に送れる仕組みを採用しているので、外出先からでも書類への対応ができる。これによって、業務効率が格段に上がるうえに、書類の保管スペースの削減も実現できます。

わたしたちが把握しているかぎりでは、ここまでのソリューションを提供しているマッチングサービスはほかになく、「セキュリティDX※1」を掲げるエルテスだからこその施策だといえます。

──サービスの提供開始から半年が経ちましたが、現状の導入実績についてもお聞かせください。

島嵜 主に大手興行会社様などにご利用いただいています。時勢を反映した相談としては、新型コロナウィルスに関するワクチン接種会場からのお問合せもありました。病院では、スポット的に警備を依頼するような機会がほとんどないため、イレギュラーな警備を依頼する場合は、一から警備会社を探さないといけません。しかも、急を要する案件だけに短時間で探す必要があった。そこに、「AIK order」の手軽さやスマートさがマッチしたわけです。今後は、全国各地で同様の需要が増えるのではないでしょうか。

──全国各地からの依頼にも対応できるのですね。「AIK order」のネットワークは、すでに全国に広がっているのでしょうか。

島嵜 東京、神奈川、埼玉などの首都圏、大阪や兵庫といった関西の都市部を中心に、東北や九州、東海エリアにもネットワークが広がってきました。今期中には560社のネットワーク化を達成し、全国47都道府県をカバーしたいと考えています。

ちなみに、2024年の2月期までに、2000社をネットワーク化するというのが、わたしたちが現状掲げている目標です。そのためにも、ワクチン接種会場向けの警備などを足がかりにして、「AIK order」をしっかり認知させていきたいですね。

▶警備業務を依頼できる「AIK order」の登録はこちら

法人向けセキュリティの常識を変えるリーズナブルなサービス「AIK sense」

──次に、AIKシリーズの第二弾となった「AIK sense」についてご説明ください。

島嵜 「AIK sense」は、アプリとスマート防犯センサーを利用した法人向けセキュリティサービスです※2。面倒な工事が不要なうえに、リーズナブルな価格で導入できるのが特徴で、特に中小規模の飲食店や物流倉庫などのニーズを見込んでいます。

これまでの法人向けセキュリティというと、大手の警備会社が先行している機械警備※3が一般的でしたが、導入するには数十万円の工事費と月額数万円のランニングコストが必要になります。中小規模の飲食店の場合だと、それを負担するのは大変ですよね。そのせいで機械警備を断念して、アナログな鍵だけで対応しているケースも少なくないんです。

その点、「AIK sense」は、扉や窓、キャビネットなどの気になる箇所に、防犯センサーを設置するだけでOK。センサーに何かしらの反応があった際はスマホに通知が届き、アプリを使って、シームレスに警備員へ出動要請ができる仕様になっています。導入時には工事も不要で、月額の費用も4980円。初期コストとランニングコストを大幅に抑えつつも、機械警備と変わらないクオリティを提供できるので、中小の飲食店などが法人向けセキュリティを導入するハードルがぐっと下がるのではないかと考えています。

▶AIK senseのサービスページ:https://www.aik-sense.com/

──「工事不要」でなおかつ「リーズナブル」というのは、中小規模の店舗にとって魅力的なサービスです。とはいえ、コロナの影響で、店舗の新規オープンは減少傾向。「AIK sense」の展開に影響はありませんか?

島嵜 コロナによって新規店舗のオープンは減っているのはもちろん、既存店も経済的には厳しい状況に追い込まれています。でも、だからこそセキュリティまわりのランニングコストを抑えたいと考えている店舗は多いし、時短・休業要請で店が無人になる時間が長くなった分、新たなセキュリティの導入を検討する店舗も増えています。それを考えれば、「この状況であるがゆえに、『AIK sense』を展開する意義がある」と言えるのではないでしょうか。

──「AIK sense」が普及することで、警備会社の側にもメリットがあるのでしょうか。

警備業界は、3兆円を超えるマーケットがある反面、働き手の高齢化や人材不足などの課題を抱えています。また、法人向けのセキュリティサービスを展開しようとすると、システムの開発から手掛ける必要があるためにコストがかさんでしまいます。つまり、これまでの法人向けセキュリティサービスは、リソースやコストに問題があったために、警備会社が参入するハードルがとても高かったんです。

しかし、「AIK sense」はシステム開発や生産コストが不要なうえに、リーズナブルな価格で導入できる。警備会社のホームセキュリティ事業への参入障壁はぐんと下がります。

──さまざまな警備事業者がサービスに参入できるようになれば、前回お話されていた「警備業界の第三極を作る」という目標の達成にも近づきそうです。

その通りです。テクノロジーをもって警備事業に参入し、中小の警備業者のデジタル化を支援することで、警備業界の第三極を実現するというのが、わたしたちの目指すところ。「AIK sense」は、その活動を具現化していくサービスでもあるんです。

“給与前払いシステム”の採用で、従業員の満足度向上に寄与する「AIK prepaid」

──今年の6月29日には、AIKシリーズ第三弾となる新しいサービスがリリースされると伺っています。そちらは、どのようなサービスになるのでしょうか。

島嵜 「AIK prepaid」という名称で、契約企業に対して「従業員への給与の前払い」を提供するサービスになります。

──一見すると警備とは関係がないようにも感じます。なぜ、ESIがそのようなサービスを手がけるのでしょう。

島嵜 これは警備業界の特徴とも言えるのですが、警備員には非正規雇用の方が多く、なんらかの事情で会社規定の給料日前にお金が必要になる方も一定数いらっしゃいます。実際、ESIやアサヒ安全業務社※4で警備スタッフの面接をしていても、「給与の前払い制度はありますか?」と質問されることは少なくありませんでした。

しかし、給与の前払いには煩雑な経理処理が発生するため、柔軟に対応できる警備会社はそれほど多くないのが実情です。そしてそのために従業員が離職し、結果的に会社のスタッフ定着率が下がっていくような“負のスパイラル”が生じるケースも、決して珍しくはありません。このことは、警備業界に参入したてのわたしたちにとって大きな盲点でした。

──そうした課題を解消するべく開発されたのが「AIK prepaid」というわけですね。どのような仕組みなのか、簡単に教えてください。

従業員が前払いを希望した際、スマホのアプリやPCで「AIK prepaid」に申請すると、その方が働いた分の給与を当サービスが立て替える仕組みになっています。

従業員は24時間365日、スマホやPCから簡単に申請できますし、即時、指定の口座に振り込まれるので、待つ手間もありません。また、警備会社の側にとっても、導入費用や運用費がゼロで、従業員満足度が上がり、ひいては定着率の向上につながる。福利厚生の一環として利用いただけると考えています。そして、このサービスによって、警備業界に好循環をもたらすことを期待しています。

▶AIK prepaidのサービスページ:https://www.aik-prepaid.com/

──ひと言で「セキュリティDX」と言っても、そこには解消するべき課題が数多くあることがわかりました。

島嵜 わたしたちの最大のミッションは、警備業界のDXを通じて業界全体を底上げすること。その意味では、弊社が「AIK prepaid」のようなサービスを手がけるのは必然の流れだったと考えています。

──そのミッションを達成するために、今後、さらに新しいAIKシリーズが生まれる可能性はありますか?

島嵜 現在も複数のサービスを開発中ですが、それらを新しいAIKシリーズとしてリリースするのか、あるいは既存のAIKシリーズに新機能として追加するのかは、まだお伝えできない状況です。

とはいえ、わたしたちがやるべきことは明確です。ひとつは、アサヒ安全業務社と連携しながら現場の課題を吸い上げ、新たなソリューションを開発すること。そして、アサヒ安全業務社に活用して頂き、フィードバックを受け、ソリューションをどんどんブラッシュアップさせること。そうやって、グループに警備会社を持っていることの強みを最大限に生かしながら、さまざまな可能性を模索し、警備業界にさらなる革新を起こしていくつもりです。

 

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※1 エルテスでは、従来の警備業態にデジタル活用を推進することでよりセキュアで効率的な変革を促進するコラボレーションやソリューションを「セキュリティDX」と定義している。

※2 「AIK sense」は、2020年12月に発表したStroboとの資本業務提携による取り組みの一環であり、ESI、Stroboの両社により開発・提供されるサービスとなっている。

※3 警備対象施設にセンサーを設置。建物への侵入や火災等の異常を機械で察知し、警備員が現場に急行する形態の警備業務を指す。

※4 1973年設立。大手電鉄会社を始めとした強固な顧客基盤を持ち、鉄道関連工事のおける列車監視業務中心に雑踏・交通誘導、常駐保安警備を提供している。2020年にESIの完全子会社化。

プロフィール

島嵜 直樹(NAOKI SHIMAZAKI)

島嵜 直樹(NAOKI SHIMAZAKI)

株式会社エルテス 事業戦略本部  警備事業部 部長 東証一部ゲーム会社/婚活会社マーケティング責任者、婚活ビジネスの起業を経て現職。AIセキュリティ事業において営業・開発・ブランディングの指揮を執る。