エルテスと包括連携協定を結び、デジタル化の推進による住民サービスの向上に取り組む岩手県紫波町が、2021年7月26日に「自治体DXセミナー」を開催した。ここでは、熊谷泉紫波町長をはじめ、弊社代表取締役の菅原貴弘、元内閣特命担当大臣(地方創生、規制改革等)の片山さつき参議院議員らが登壇したセミナーの模様をリポートする。
日本政府が推進するデジタル化。その課題と現状とは?
2020年12月25日に「デジタル社会の実現に向けた基本方針」が閣議決定されるなど、今後の大きな進展が期待される我が国のデジタル社会。それにともなって、各自治体でも「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を合言葉に、住民の利便性向上につながる行政サービスのデジタル化など、“既成概念にとらわれない行動変容”が待ったなしで求められている。そうした状況のなか、民間企業であるエルテスと包括連携協定を結び、デジタル化の推進による住民サービスの向上に取り組むのが岩手県紫波町だ。
紫波町ではこの7月26日、デジタル技術とデータを活用し、次世代に対して「都市や地域をどのような形で引き継ぐか?」を考える契機とするべく「自治体DXセミナー」を開催。
熊谷泉紫波町長の挨拶に続いて、セミナーの前半では菅原が登壇。日本のデジタル化社会の実現に向けて、同社が果たすべき役割を力強く語るとともに、「紫波町が目指す、民間主導のデジタルPFI」をテーマに事例紹介を行った。
熊谷泉紫波町長のご挨拶
紫波町から全国への展開を目指す、デジタルPFI構想とは?
ここからは、菅原の講演内容を要約して紹介していく。
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講演内容
タイトル:「紫波町と目指す、民間主導のデジタルPFI」
登壇者:株式会社エルテス 代表取締役 菅原貴弘
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エルテスでは2016年から、エストニアの電子政府化を後押ししたサイバネティカ社と提携し、電子政府基盤(X-Road)を製品化した「UXP」の日本での展開を進めてきましたが、日本では企業や自治体に張り巡らされた専用線の存在がデータ連携のハードルとなっていました。しかし、片山さつき先生が推進するスーパーシティ構想のなかで、データ連携基盤(※1)の整備が必須とされたことで、いまでは多くの自治体からUXPに関するお声がけをいただくようになっています。
日本の金融機関などでは、専用線のなかで動くオンプレミス(※1)のシステムをそれぞれが持っており、“インターネットから隔離された世界”でしか使えないシステムが、デジタル化の推進に対する大きな障害となってきました。そうした障壁を乗り越え、デジタル・ガバメント(※2)の実現に貢献することが、エルテスや子会社のJAPAN DXのミッションのひとつとなっています。
また、各自治体がそれぞれIT企業にシステムを発注するという現在のやり方についても、我々は課題を感じています。多くの無駄をなくして各自治体の初期投資を抑えるためには、いいものをつくって全国に横展開すればいいのではないか。エルテスではそう考えて、官民連携スキームである「デジタルPFI構想」(※3)を策定し、低コストで質の高いサービスの自治体への提供を目指しています。
「スーパーシティ構想」(※4)においてエルテスは、紫波町の隣にある矢巾町を含め12の自治体から主要事業者に選定されています。我々はスーパーシティはもちろん、日本社会全体がスマートシティ(※5)に変わっていくという前提で、紫波町と包括連携協定を結ばせていただきました。現在は、紫波町でつくりあげた仕組みを全国に横展開できるようなアプリケーションの開発を目指していますが、その鍵を握るのがデジタルPFI構想です。デジタルPFIでは、従来のシステム開発のように自治体から決まった予算をいただくのではなく、広告モデルなどその他の方法での収益化を図ります。
▶紫波町と「地域のデジタル化推進に関する包括連携協定」を締結に関するプレスリリースはこちら
通常なら予算取りや開発を含めて1年半くらいかかるところが、デジタルPFIならより迅速なスピード感で実現可能になります。紫波町においてはすでに、ひとつのポータルに行政サービスを統合した市民総合ポータルをはじめ、パーソナルヘルスレコードを活用して健康増進につなげるお散歩アプリなどの開発や、各種行政申請のデジタル化の検討を進めており、これを全国に広めていきたいと考えています。
国民が費やす無駄な作業や時間にコスト意識を持てなかったことが、日本の行政が抱える課題でした。たとえば行政手続きで同じ入力作業を何度も繰り返させることは、国民全体で見ると大きなロスになる。我々が推進するデータ連携基盤であれば、そうした無駄もなくスムーズな手続きが可能になりますし、住民の皆様がストレスを感じないアプリケーションを紫波町とともに開発していきたいと思っています。
住む人々が幸せになるために、DXで全体最適を目指す
続いてセミナーの後半では、第4次安倍改造内閣では特命大臣として、地方創生や規制改革などをリードしてきた片山さつき参議院議員が登壇。「スーパーシティが目指すこと」をテーマに講演を行った。
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講演内容
タイトル:「スーパーシティが目指すこと」
登壇者:参議院議員 片山さつき
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今年の6月に閣議決定された政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)では、まさにそのど真ん中に「官民を挙げたデジタル化の加速」という項目が入りました。
政府は、多様で持続可能なスマートシティを2025年度までに100地域構築することを目指し、そのためにハードソフト両面での一体支援を行っていきます。そこで対象となる重点地域を選定し、都市間・分野間連携の基盤となる都市OSの早期整備によって多角連携の実現を後押ししていく。そこにはゼロカーボンの取り組みやグリーン化、MaaSなど、さまざまなものが入ってきますが、こうした町づくりには人材も必要ですし、持続可能なマネタイズをどうするかといった運営費の回収モデルの構築なども必要になります。
そうした各地域での先端的な取り組みが点で取り残されることはなく、永続的に展開し続ける方針と方向性であることが、今回の骨太の方針で初めてはっきりしたのです。
(中略)
従来の規制改革とは大きく異なり、「スーパーシティ」は事業計画であり、いわば点ではなく面で見る政策です。そこで求められるのは、対象となるそれぞれの自治体や特定のエリアに住む人々が幸せになる全体最適のプランのクオリティ。その目的はあくまでも地方創生であり、いわば1741の市区町村による“幸せなサバイバル”です。
そのなかでは、まさにサスティナビリティこそが究極の目的であり、規制改革自体は目的ではありません。ですから、まずは「住民が幸せになるために何をどうするべきか」が決まり、次に「そのためにはどのような規制を取り払っていかなければならないか」が決まっていく。もちろん、それぞれの計画は町の人口構成や課題などを反映したものであり、そうした全体的な事業計画の優劣で対象地域が決定されます。
スーパーシティ構想、あるいは自治体のDXは、住民の皆様の困りごとに寄り添った解決策を出し、トライアンドエラーを繰り返しながら実装へとつなげていけることが大きなメリットになると考えます。クラウドを活用したシステムであれば、実装後もどんどん手直しすることが可能ですし、クラウド自体も進化させていけます。行政のDXに民間企業が参入することで、そうした技術の進化への対応や最新技術の活用も進むでしょう。また、これまでの日本の役所や企業に見られた「完璧なものをつくって、それを保守し続ければいい」という姿勢も変化してくるはずで、これからは短いスパンで実装とテストを繰り返すような、アジャイル的思考が一般的になることが期待されます。
日本の生産現場には、学歴などとは違う次元の“ものづくりの天才”がいて、そうした人の意見がボトムアップで反映されやすいという特徴があります。これは、先進国ではほぼ日本でしか見られない傾向であり、だからこそ日本はものづくりにおいて世界に評価されているのだという見方もあります。そして、クラウドを使った改善型のシステムであれば、現場を重視する日本のものづくりの強みを存分に生かすことができます。
日本では、まさにこれから静かな革命が起きます。私もその伝道師として、ぜひ皆さんとともに日本のデジタル化を推進してまいりたいと思います。
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片山氏からは、このほかにも、スマートシティにおけるデータ連携基盤の重要性や、ようやく日本政府が本腰を入れた感のあるデジタル人材育成戦略の詳細、さらには「スーパーシティ構想」に応募する各自治体の特徴や、世界各国で見られるコロナテックな街づくりの原状など、多くの示唆に富む内容が語られた。そして、そうした言葉の端々に、日本の成長戦略の最重要課題(=地方自治体のDX)において、重要な役割を担うエルテスのような民間企業への期待感を感じることができた。
セミナーの最後には、紫波町の副町長である藤原博視氏が登壇。参加者に向けて「片山先生のお話から、これから日本や地方が変わるという実感ができました。そして菅原社長をはじめとするエルテスの皆さん、これからもよろしくお願いいたします」と力強いメッセージを送り、セミナーを締めくくった。
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※1 スーパーシティ構想では都市の中に自動運転やドローン配達、キャッシュレス、AIを活用した医療、教育等様々なIT技術が利用される予定となっており、そうしたIT技術をデータで連携することを「データ連携基盤」(都市OS)と呼んでいる。
※2 システムの稼働やインフラの構築に必要なサービやネットワーク機器、ソフトウェアなどを自社で保有し運用するシステムの利用形態。対して、これらを自社で保有せず、既存サービスなどを利用してシステムを運用する形態がクラウドとなる。
※3 コンピュータやネットワークなどの情報通信技術(IT)を行政のあらゆる分野に活用することで、国民・住民や企業の事務負担の軽減、利便性の向上、行政事務の簡素化・合理化などを図り、効率的、効果的な政府・自治体を実現しようとするもの。
※4 民間企業のサービスやテクノロジーを集結し、地方自治体に効果的に還元することで、市民生活の向上ならびに自治体のDXを強力に後押しすることを目的とした構想。ICTを活用した地域課題解決型サービスの導入を推進し、住民・地方公共団体・民間企業が相互にメリットを得られる機動的なDX推進を目指す。
※5 遠隔教育や医療、ドローンによる自動配送や自動車の自動運転、キャッシュレス決済など、地域の課題を解決するための先端技術を実装した「未来都市」を、国や地域、事業者が一体になって実現させようという取り組み。
※6 ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義される。