デジタル庁が創設されたり、官民が連携してスマートシティ構想を推進したりと、今後の数年で「社会のデジタル化」が加速度的に推進されることが予想される日本。そうしたなか、大きな障壁と考えられているのが、中央と地域などの住む場所や世代などの違いによるデジタル格差(デジタルデバイド)の問題だ。
岩手県紫波町とそしてピーシーデポコーポレーション(以下、PCデポ)、JAPANDX(エルテス子会社)の3者は、公民の連携によってそうした課題に立ち向かい、地域のデジタル化を一体的に推進するべく包括連携協定を締結。2021年11月22日には、記者発表会を通じて締結式が行われるとともに、日本で初めて実践投入される「移動デジタル相談車両」がお披露目された。今回は、地域のデジタル格差解消に向けた大きな一歩となる、同プロジェクトの記者発表会の模様をレポートする。
公民連携で実現する地方のデジタルデバイド解消
国の補助金に頼らない公民連携の都市整備事業「オガールプロジェクト」をはじめとする、先進的なまちづくりで全国から注目を集める岩手県紫波町。同町とエルテスは2020年に包括連携協定を結び、デジタル化の推進による住民サービスの向上に取り組んできた。
そして今回、地域のデジタル化に向けた取り組みをより強力に推進し、住民サービスの向上と地域課題の解決等を図ることを目的に、紫波町とPCデポ(※1)、JAPANDXの3者が包括連携協定を締結。全国にオンライン配信された11月22日の記者発表会には、PCデポ代表取締役社長執行役員の野島隆久氏、エルテスおよびJAPANDX代表取締役の菅原貴弘が出席した。
記者発表会の冒頭では、司会を務めたエルテスの江島周平(コミュニケーション部 部長)が、「紫波町さんが目指すのは、ICTの利活用による暮らし心地の向上であり、その中心にいるのはあくまでも町に住む人々。単純に行政をデジタル化するだけでは不完全だと我々は考えます。だからこそ今回のプロジェクトでは、“人間中心のデジタル推進こそが本質である”との考え方を軸に、町に住む人々がユニバーサルにデジタル化の恩恵を受けられる社会をつくること。また、日本全体を取り巻くデジタル格差などの課題に対して、公共と民間が連携して取り組んでいくことを中核に、取り組みを進めてまいりました」と、協定締結にいたった背景を説明。さらには、取り組みの目玉の一つである、日本初の車両型店舗(コネクテッドモバイルストア)を使った、移動デジタル相談の展開についての紹介が行われた。
車両型店舗を使った移動デジタル相談の概要について簡単に解説すると、①PCデポの簡易店舗機能を持った移動デジタル相談車両が、官民複合施設商業施設であるオガールプラザをはじめ、紫波町の各地域を巡回。②紫波町総合ポータルアプリ「しわなび」(※2)のダウンロードや利用支援、さらにはデジタル機器のトラブルに関する相談などを実施することで、③地域住民のデジタル格差の解消を狙おうとするものだ。
今回の包括連携協定においては、「しわなび」の利用者へのサービスが主な目的となるが、実際にはPCデポの無料会員登録をすることで誰もが相談サービスを受けることが可能となる。
店舗機能を備えた移動デジタル相談車両で出張相談を実現する
記者発表会ではその後、包括連携協定締結式が行われ、3者それぞれのあいさつへと移行。まずは、PCデポの野島社長が登壇し、企業としての理念やミッション、同社が開発した車両型店舗を使った活動への思いを語った。
「現代はデジタル知識の有無により、得られる情報や生活に差ができてしまっています。PCデポでは、以前から『情報社会における格差を解消する』というビジョンを掲げ、さらには『すべてのお宅にデジタル担当を』というミッションを実現するため、デジタルライフプランナーという制度を設けています。当社のデジタルライフプランナーは、ご家庭のデジタル担当としてお客様に寄り添い、ご自宅のインターネット環境の整備からデータのバックアップ、さまざま手続きの支援まで、豊かなデジタルライフの実現に向けたサポートを全国で行ってきました。
今回の包括連携協定は、JAPANDXの菅原社長からお声がけいただいて実現したものですが、紫波町様の取り組みや熊谷町長が発せられるメッセージを見ても、我々のような民間企業に大きなご期待をいただいていることが伝わってきます。
だからこそ、当社が蓄積したノウハウを使って、ぜひとも地域のデジタル化推進のお役に立ちたい。そのために、店舗とほぼ同等のサービスをご提供できる移動車両で、『しわなび』アプリのダウンロード支援やさまざまなご相談への対応などを行っていきます。PCやスマートフォンなどに関する相談をするために、盛岡の店舗まで来ていただいている紫波町民の方だけでなく、今まで店舗をご利用いただいたことがない紫波町民の方にもぜひ移動デジタル相談をご利用いただければと思います。」
すべての人がデジタル化の恩恵を受けられる社会を目指して
野島社長に続いては、JAPANDXの菅原が、今回の取り組みに関するプレゼンテーションを実施。コメントは、JAPANDXやエルテスのプロジェクトのコンセプト紹介にとどまらず、プロジェクトの将来的な展望にまで及んだ。
「これまでの日本では、1700の地方自治体がバラバラに予算を使い、似て非なるシステムやサービスをつくってきました。そうした行政サービスのデジタル化を、民間の力を活用して予算を掛けずに実現していくことが、JAPANDX社のコンセプトです。
具体的には紫波町様と連携し、紫波町民向けの総合ポータルアプリ『しわなび』を開発・ローンチいたしました。これは、日本国内の約1700の地方公共団体への導入を目指す『地方公共団体スーパーアプリ構想』(※3)の第一歩であり、紫波町様での実績を持って全国への展開を目指します。さらに、当社の社員を紫波町様に派遣させていただくなど、地域のデジタル化を推進するデジタル活用支援人材の育成やマッチングについても、今後ますます力を入れていきたいと考えています。
また、我々は2017年から、エストニアの電子政府を実現した電子基盤であるUXPを日本で展開しています。日本でもデジタル庁が創設され、令和7年までのガバメントクラウドの実現を打ち出していますので、そこを見据えてスーパーシティには不可欠となるデータ連携基盤の展開も行っていきます。
今回、PCデポ様のご協力を得て、移動デジタル相談車両を使った紫波町各地域での無料デジタル相談が実現しました。この移動車両の発表会を拝見して、私自身も『これは地方のデジタル解消のキーコンテンツになる』と確信しました。地域の皆様にとってはもちろん素晴らしいサービスになると思いますし、将来的にはこの取り組みを全国に展開できればと考えています。」
最後は、熊谷町長が登壇。包括連携協定を結んだ各社への感謝を述べるとともに、取り組みへの期待を次のように語った。
「紫波町では現在、本店を紫波町に移してくださったエルテスとともに、役場の中からデジタル化を推進しようとしているところです。そうしたなかで“デジタル町役場”ともいうべき『しわなび』を開発し、提供できたことは大きな一歩だといえます。とはいえ、当町においても比較的最近に移住されてきた方の多い中央部や、西部、東部の農村部、あるいは家庭の年齢層などによるデジタル格差が生じていることは事実。なかにはデジタルデバイスを使い切れていない世帯もあるでしょう。
今回の取り組みでは、移動デジタル相談車両を使って、そうした方々のいる地域にまで出張し、アプリのダウンロードや使い方などについての支援、デジタルに関する様々な相談に対応できるようになります。我々にとっては、非常に心強い味方ができたと感じておりますし、今後も紫波町では民間の皆様のお力を借りながら、全町民がデジタル化の恩恵を受けられるような取り組みを進めていきたいと考えております」
3者のあいさつの後は、オフライン/オンラインでの質疑応答や写真撮影、移動デジタル相談車両のお披露目会を実施。PCデポの店舗さながらの設備・機能を解説しつつ、記者発表は閉会となった。
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今後の日本ではマイナンバーカードの普及が進み、近い将来にはマイナンバーカードによる公的証明書の統合、行政サービスの各種申請、商取引などが実現することも予想される。そして、そうした未来においては、年齢や教育、居住地域によるデジタル格差をなくし、すべての人がデジタル化の恩恵を受けられる社会がのぞまれる。その点において、公共と民間が四つに組んだ今回の取り組みは、「未来に向けて大きな意義を持つもの」あるいは「大きなヒントになり得るもの」といえそうだ。
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※1 「全てのお宅にデジタル担当を」をミッションに掲げ、PC やスマートフォンをはじめとする IT 機器を活用した豊かな生活をサポートする月額制会員サービスを中心に全国約 130 店舗を展開しています。
IT 機器の修理・購入・使い方などのお困りを解決し、安心して使えるようにサポートすることでデジタルデバイド を解消するとともに、ご家族専任の“デジタル担当”である、デジタルライフプランナーがお客さまに寄り添った中長期的なデジタルライフを共に創ります。
※2 JAPANDXが地方公共団体DX化のために提唱する「スーパーアプリ構想」のモデルケースとしてリリースした紫波町民向け総合ポータルアプリ。町からの情報を一覧できる機能を持ち、大切なお知らせや防災情報、デマンド型乗合バスの予約、健康増進アプリなどの行政サービスにアクセスが可能。運営・管理が簡単で、かつ安全でシームレスに連携されたアプリは、質の高い住民サービスをワンストップで提供していきます。
※3 JAPANDXが提唱する、地方公共団体におけるDX化プロジェクトのひとつ。同プロジェクトでは、都市OS(データ連携基盤)を活用して、住民のための地域課題解決型サービスを集約した「住民総合ポータルサービス」+「アプリケーション」=「スーパーアプリ」の開発・運用を行います。