2023年5月29日に、創業50周年を迎えた警備会社And Security。社会の複雑化や価値観の多様化にあわせて、常に変化と成長を求められる警備業界において、50年もの間、安全・安心を供給し続けてきたその活動は注目に値するだろう。そこで今回は、And Securityのこれまでの軌跡を振り返るとともに、エルテスグループへの参入によって生まれたシナジー効果やこの先に見据える新たな展開について、同社の取締役社長の藤井義久と株式会社AIK(※1)の取締役CFOの飯尾喜一郎に聞いてみた。
「非常時こそいざ現場」の精神で、クライアントの信頼を獲得
──今年5月、And Securityは前身のアサヒ安全業務社(現:And Security)の創業から数えて50周年を迎えました。まずは率直な感想をお聞かせください。
藤井 ひとえに従業員のみなさんのおかげだと、感謝の気持ちでいっぱいです。1973年にアサヒ安全業務社としてスタートしたころは、高度経済成長期を経て警備事業社が増えていた時期。創業者も含めてここまで長く続くとは思っていなかったかもしれません。
私は学生アルバイトの時代を含めると40年近く会社におりますが、あらためて「なぜ50年間も事業を継続することができたか」を振り返ってみると、草創期を支えた先輩方に人格者が多かったことが挙げられると思います。私がアサヒ安全業務社に入社した当時は、仕事に対して真摯に取り組む先達の姿勢を従業員みんなが尊敬し、その背中を見ながら現場での仕事に励んでいました。そして、今度はそれを見たお客様が「仕事に対する取り組み方が素晴らしい」とわれわれのファンになってくださった。
そうやって会社と従業員、お客様との間に信頼関係が築かれた結果、安定的な受注につながり、「気が付いたら50年が経っていた」というのが正直な思いなのです。実際、And Securityには40年以上前から在籍している永続勤務の従業員が複数人いるんですよ。
──お客様や従業員を惹きつけてきた、50年間変わらない会社の理念や姿勢をあえて言語化するなら、どういったものになるでしょうか。
藤井 「社会貢献」という言葉に尽きます。And Securityでは創業時から「2号業務(※2)」と呼ばれる工事現場の誘導員や雑踏警備、イベント警備などをメインに手がけてきました。特に、電鉄会社の地域再開発事業や鉄道施設改良工事における警備に関しては、取引先からの大きな信頼を得ており、これまで多くの案件を受注しています。一般の方にはなじみの薄い現場だと思いますが、電鉄会社の鉄道工事は民間事業でありながら、非常に公共性の高い業務です。そして、そうした現場では大雨が降ったり、降雪、台風が直撃したりといった緊急時にこそ、「警備をお願いしたい」と要請がある。そのため、われわれは「いざ現場」という意識を常に持ち続けなければなりません。むしろ、緊急時こそ自分たちの出番だと、従業員一人ひとりが自負していると思います。
──そうした姿勢が評価されて、創業以来順調に事業を伸ばしてきたわけですね。一方で、近年は社会状況の変化に追従しきれず、警備業界の受注量や従業員数が減っていると聞いています。
藤井 And Securityでは受注量も従業員の数も、2013年ごろがピークだったと記憶しています。その時期を境に350人強ほどいた従業員の数が減っていき、ここ10年は募集をかけても人が集まらないような状況が続いていました。仕事がなければ人は減り、人がいなければ受注量は拡大できない。エルテスグループに参入した背景には、そうした閉塞した状況を打開したいという思いもあったのです。
And SecurityとAIKの協業で生まれるシナジー効果
──アサヒ安全業務社がエルテスグループに参入したのは、2020年12月のことです。エルテスとしては、どのような思いからM&Aに踏み切ったのでしょう。
飯尾 当時、エルテスは新しく立ち上げた警備業界のデジタル化を促すAIセキュリティ事業を推進していく方針を掲げていました。とはいえ、私たちには警備の仕事に関わった経験がほとんどありません。そのため、社内には「業界の実態を知らないまま事業を展開しても、マーケットとの剥離が激しくなるだけではないか」という声もありました。
そこで、警備会社とタッグを組めないかを模索したところ、アサヒ安全業務社とのご縁がつながり、エルテスの活動に共感していただくことができた。その結果、お互いの発展を目指してM&Aという形を取ることになったのです。
さきほど藤井社長からもお話があったように、アサヒ安全業務社は2号警備において確かな実績を残してきた警備会社です。そのため、M&A後はAIセキュリティ事業に取り組む上で必要な知見を数多く提供していただくことができました。本当に心強いパートナーだと実感しています。
──その後、アサヒ安全業務社はAnd Securityに社名を変更しています。参入後にAIKとAnd Securityが共同で行っている取り組みの事例を教えていただけますか?
飯尾 いまメインで取り組んでいるのは「AIK order(アイク・オーダー)」というサービスです。AIK orderは警備を依頼したい個人や法人と警備会社とをつなぐマッチングプラットフォームで、チャット機能を使って手軽に警備の相談が行えるほか、ウェブ上で契約手続きを行うこともできます。
藤井 私たちがエルテスグループに参画したときには、すでにAIK orderのプロトタイプが完成していました。それで、「とにかく使ってみてほしい」と依頼されて日々の業務に導入したのですが……。ご存じのように警備業界は、まだまだアナログな業界。最初は、慣れないシステムの操作にとまどってばかりでした。チャット機能の便利さを頭では理解しているものの、「躓きながらメッセージを投稿するくらいなら電話したほうが早い」と思ってしまうわけです。
ところが操作に慣れてくると、途端に「こんなに便利なものはない」と思えてきた。現金なものですよね(笑)。受注の金額をチャット上で交渉できる上に、きちんと履歴も残る。契約書面の手続きにしても、従来はパソコンで作成した書面をプリントしてやりとりしていましたが、AIK orderはウェブ上ですべて完結できる。非常に効率的です。
▶AIK orderのサービス詳細はこちら
飯尾 当時のAIK orderはUI(ユーザーインターフェイス)もいまほど洗練されておらず、われわれから見ても使い勝手の点で課題の多いサービスでした。ですから、操作にとまどったのも無理はありません。
そのため、今年2月にはAnd Securityからのフィードバックを集約した上で、案件登録時の入力項目の簡略化、契約書面手続きの簡略化をはじめとする大幅なアップデートを実施しました。
藤井 確かにアップデート以降は、格段に使いやすくなりましたね。わたし達のフィードバックを反映いただけたことは、エルテスグループの一員として、役割を果たせているような気がしており、嬉しくなります。
飯尾 AIK orderを導入する警備会社も堅調に増えており、導入警備会社のカバレッジ地域が47都道府県を網羅するまでになっています。導入警備会社の警備員数も2万人を超え、全国のどこで警備の需要が発生しても、警備会社とのマッチングが迅速に成立するようになりました。
「どうせできないからやらない」が「こうすればできる」へ
──AIK orderをリリースした当初は、「導入警備会社をいかに増やすかが課題」だとおっしゃっていたので、一定の目標は達成できたということですね。そのほか、M&Aによるメリットがあればお聞かせください。
藤井 And Securityとしての最大のメリットは、従業員の増員とマインドの変化ですね。先ほど申し上げた通り、エルテスグループへの参入を決めた理由の1つは、閉塞感を打開することです。課題となっていた採用に対してエルテスからさまざまな助言をいただきました。これまでやってこなかったアプローチを複数試みたところ、例年は5人前後だったのですが、昨年は30人もの増員に成功しました。特に若い方の採用はなかばあきらめていたので、正直驚きました。
それに加えて、受注量も確実に増加しています。われわれは創業以来、安定的にお客様に恵まれていたこともあり、顧客の新規開拓の営業をほとんどやってこなかった。しかし、エルテスグループに参入してからは「業界の先行きを考えたら、現状維持で満足していてはいけない」と発破を掛けられ、テレアポのやり方など基本的な営業のノウハウを教えていただきました。そうやって慣れないながらも営業に力を入れたところ、新規顧客が開拓できるようになったのです。
飯尾 エルテスやAIKには営業チームがあるため、新規開拓のノウハウもそれなりに蓄積されています。それを生かしながら、一緒に案件を獲得していった感じですね。
藤井 警備業界はとにかく保守的なので、警備会社の多くは新しいことにおよび腰になりがちです。実際のところ、われわれもそうでした。けれど、エルテスグループの一員になり、採用や顧客の新規開拓に成功したことで、従業員のマインドが「どうせできないからやらない」から「こうやればできる」に変わってきています。「やればできるから、手をこまねいていないで動いてみようよ」と。みんなの目の色がこれまでとはあきらかに違うと感じますね。
飯尾 エルテスのデジタルに関する知見や、営業、採用のノウハウを生かして会社の規模が拡大する。伸び悩む警備会社が多いなかで、そんな成功モデルが作れたらうれしいですね。
もちろんAIKとしても、「AIKシリーズ」の開発に現場の声を反映できるメリットを享受しています。実は新商材の開発もスタートしたのですが、それについても開発段階から、And Securityにいろいろな知見をもらっているところです。
女性と若手の増員、テクノロジーの活用で警備業界の産業構造に変革を!
──お互いにM&Aのメリットを実感しているとのことですが、今後、力をいれていきたいことはありますか?
藤井 1つは「女性従業員の活躍促進」です。さまざまな業界で女性の活躍が推進されている昨今、警備業界でも女性が働きやすい環境を整えなければ、事業成長の未来がないと考えています。And Securityにも少しずつ女性の従業員が増えていますが、トイレや着替えなどの面で女性にやさしい現場はまだまだ少ないのが実状です。お客様とも交渉しながら、その状況を変えていくように努めたいですね。
飯尾 AIKでも警備業界に女性を増やそう、女性が働きやすいようにデジタルを使ってサポートしようという機運が高まったんです。「2号業務は高齢男性の仕事」という先入観を払拭し、イメージを向上させるためにも、何とかやり遂げたいと思います。
加えて「警備業界のAmazon」になることも、私たちの大きな目標の1つです。警備業にかかるリソースを一元管理し、スピーディーかつ適切にクライアントへ安全・安心を届けることを目指しています。ここ2〜3年で日本の治安をめぐる状況は大きく変わってきました。それは、政治家を狙った事件が発生したり、ルフィ事件のような遠隔操作での強盗事件が起こったりと、これまでは考えられなかった事件が頻発していることからも明らかです。昔は「水と安全はタダ」と言われていましたが、もはやそんなのんびりした時代ではありませんよね。
そうした状況だからこそ、警備会社として安全・安心をすばやく、適切に届けられる体制の構築を急がなければならないと痛感しています。
──安全・安心のために、「警備業界のAmazon」が実現する日を心待ちにしています。では最後に、次の50年へ向けての意気込みをお聞かせください。
藤井 And Securityを含めて、多くの警備会社では従業員の高齢化が進んでいます。数年後、その方たちが引退する時期がくれば、業界は深刻な人手不足に陥るでしょう。そうなればお客様に安全・安心を提供できなくなりますから、いまのうちに若手を育成しなければなりません。
また、人手不足が顕在化すれば、小規模の警備会社は倒産したり、大手に吸収されたりして淘汰が進むはずです。そうしたなかで生き残るには、いま以上に警備の質を向上させるしかありません。もちろんAnd Securityが提供する警備のクオリティには自信をもっていますが、人間のやることなので、どうしても小さなミスは起こりえます。
ですから、次の50年に向けては、そうしたヒューマンエラーを徹底的に排除していきたいと考えています。せっかくテックカンパニーのパートナーになったのだから、AIKと一緒にヒューマンエラーをなくせるようなデジタルサービスの実現を目指したいですね。
飯尾 ヒューマンエラーはインシデントの要因になりやすいので、未然に防ぐことができれば、警備のクオリティや効率は格段に向上します。付け加えるなら、エラープルーフはデジタルテクノロジーとの親和性が非常に高い。今後われわれが実現すべきことの1つとして、ぜひ一緒に取り組みましょう。
※1 旧株式会社エルテスセキュリティインテリジェンス。エルテスの子会社として、警備DX事業を手がける。
※2 警備業法上では、1号業務(施設警備業務・巡回警備業務・保安警備業務・機械警備業務)、2号業務(交通誘導・雑踏警備業務)、3号業務(運搬警備業務)、4号業務(身辺警備業務)の4種類に大別されており、それぞれの業務のなかでさらに細かい業務内容と配置基準、必要とされる警備検定資格などが定められている。
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プロフィール
藤井義久(Yoshihisa Fujii)
株式会社And Security 取締役社長 株式会社アサヒ安全業務社(現:株式会社And Security)にアルバイトとして入社し、工事現場にて列車見張、交通誘導業務に従事。その後、正社員となり管制員として人員配置等の業務に従事し、2001年7月に取締役就任。経営者として、社員が働きやすい、魅力的な環境をつくるために「しっかり仕事して、思いっきり休む(遊ぶ)」というメリハリのある余暇を大切にした生活が送れる会社を目指す。
飯尾喜一郎(Kiichiro Iio)
株式会社AIK 取締役CFO 大手メーカー、通信会社、コンサルティングファーム、イベント会社、医療関連会社を経て、2021年3月に株式会社エルテスに入社。幅広い業界と大小異なる規模においてバックオフィス業務を中心に管理業務やM&Aの経験を積む。現在は、株式会社エルテスのコーポレートファイナンス部長、株式会社AIKの管理部長を経て、2023年5月に株式会社AIKの取締役に就任。