このたび発表された中期経営計画「The Road To 2024」において、「AIセキュリティ」と「地方自治体のDX推進」という新たな領域への本格参入を打ち出したエルテス。なぜエルテスがそれらの事業領域へ挑戦するのか——。その理由から具体的な事業内容、目指すゴールまでを、代表の菅原貴弘と、執行役員の三川剛に聞いた。
日本にとっての“足りないもの”をエルテスのビジネスで補完する
——まずは、中期経営計画である「The Road To 2024」で発表された、エルテスの新領域への挑戦についてお聞かせください。
菅原 今回の「The Road To 2024」では新たに3つの事業セグメントを明確に定め、それぞれの成長を目指すという方向性を打ち出しています。具体的には、これまでの基幹事業であるデジタルリスク事業に加え、「AIセキュリティ事業※1」と「DX推進事業」という、これまで温めてきた分野での事業を本格的に展開するというものです。今年度はそうした挑戦の第一歩を踏み出し、そこから各領域における第一人者を目指していきます。
※中期経営計画「The Road To 2024」で示された、3つの事業セグメントへの展開構想
——エルテスはこれまで「デジタルリスクの企業」という印象が強かったと思います。新たな事業領域に挑戦する背景には、どういった理由があったのでしょう?
菅原 私はもともと、リスクを受動的に対処するセキュリティではなく、情報分析によって危機を予測して備える、いわゆるリスク・インテリジェンスの考え方に重きを置いてきました。しかし日本では戦後からインテリジェンスが発達せず、米国などと比べると旧態依然のままです。その一方、社会のデジタル化が進んで分析可能なデータの総量は飛躍的に増えていて、危機予測が可能になっている。こうした状況に大きな機会があると考え、これまでデジタルリスク事業を推進してきました。
その一方で、先進国だと思われていた日本は今、デジタル化という面で国際的に遅れを取りつつあります。私は2016年にエストニアを視察し、同国の電子政府化の立役者でもあるサイバネティカ社※2と翌2017年から業務提携を結ぶなど、日本における電子政府化に向けた準備や提案もいち早く行ってきました。しかし、当時はまだデジタル化の機運が高まっておらず、電子化の必要性をなかなか理解してもらえませんでした。そうした経験のなかで「日本には真の意味でデジタル化が進む土壌がない」ということを実感し、危機感を覚えました。
だとしたら、自分たちはどうすればいいのか——。そう考えてたどり着いた答えは「自分たちでやってやろう」でした。これまでデジタルリスク事業によって成長してきたけども、日本社会のデジタル化が進まなければこれ以上の発展がない。だとしたら、自分たちで補完するしかないだろう、と。それこそが今回の「The Road To 2024」で掲げた新領域に挑む理由です。
——DX推進事業では、日本が“真のデジタル化”を目指すためのサポートをしていくということでしょうか。
菅原 地方自治体がDXを推進するために必要な仕組みを整備することが、DX推進事業の主軸です。そこでは住民に関連するセンシティブなデータが取り扱われますが、我々にはサイバネティカ社と取り組んできた実証実験によるノウハウがあり、またデジタルリスク事業で積み上げてきた知見も役に立つと考えています。
——その一方で、“AIセキュリティ”という、デジタル化された警備事業にも注力するとあります。
菅原 当社には「エルテスセキュリティインテリジェンス」という子会社がありますが、その名称が示すとおり、セキュリティとインテリジェンスは両輪であると考えています。インテリジェンスの力で対象を絞り、より効果的なセキュリティ対策を行う。それが世界の常識ですが、先ほども申し上げたように日本ではそうなっていないように感じます。極端な言い方をするなら、建物に侵入される経路を考慮せず、とりあえず玄関にいくつも鍵をかけるようなやり方に留まっている。そうしたやり方を、データ分析とIoT活用によって変えていこうというのが、AIセキュリティの基本的な考え方です。そこには、警備業界内でのデジタル格差解消といった、業界の問題に対する挑戦も含まれます。
地方自治体と警備業界のDXを先頭に立って牽引していく
——新たに参入・強化を目指している2つの事業について、具体的な活動内容をお聞かせください。
三川 DX推進に関しては以前から構想を温めていた事業でしたが、日本社会特有のデジタル化に消極的な姿勢からなかなか前に進みませんでした。しかし昨年からのコロナ禍の影響もあって、各方面でのデジタル化が急激に進みはじめたと感じています。なかでも、政府が2030年の実現を目指す、「スーパーシティ」構想※3に代表されるような自治体のデジタル化については、先ほど話に出たサイバネティカ社との関係もあって、弊社として大きな強みを持っています。
自治体のデジタル化を推進するには、官民の様々なデータを連携する「都市OS」の構築が不可欠ですが、そうしたプラットフォームをエルテスが提供し、行政と民間のデータを効果的に交流・活用。それをもとに幅広く住民サービスの質を上げていく、というのがDX推進事業の概要です。具体的には、住民票や各種証明書などの手続きがアプリで完結できるような行政オペレーションのデジタル化はもちろん、街に住む人々の健康増進に関わる取り組みやライドシェアの普及、空き家問題などの課題を解決するサービスを、官民が連携してスピーディに実現するための提案を行っていきます。
新たな事業領域でも生かされるセキュリティのプロとしての“強み”
——それぞれの事業領域においては、どのようなゴールを目指しているのでしょう?
三川 大手以外に中小の会社が数多く存在する警備業界では、人材不足や高齢化が共通の課題となっています。また、デジタル化も進んでおらず、作業の管理を人的リソースに頼るなど、非常にアナログな業界でもあります。だからこそ、AIセキュリテイ事業には大きな可能性がある。 “地銀連合”のように、弊社が中小の警備業者を束ねるリーダーとなって、警備業界の第三極化を実現したいですね。数字的な目標をあげるなら、M&Aによる警備業務の拡大や、警備を効率化するAIサービス・AIプロダクトの販売などを通じて、2024年2月期までに20億円以上の売上を達成したいと考えています。
一方のDX推進事業は、菅原の故郷である岩手県紫波町で、実際の取り組みを進めているほか、内閣府が推進する「スーパーシティ」構想でも、12の地方公共団体から主要事業者候補に選定していただきました。そういう意味では、当社の提案や実績が着実に評価されている状況です。ですから、こうした流れをさらに拡大し、各自治体にいち早く弊社のサービスや提案を導入してもらうことが、当面の目標でありゴールとなります。
菅原 地方自治体との取り組みにおいては、経験的にも技術的にも圧倒的な強みを持っています。とはいえ、何かを民営化する際には、ステレオタイプな批判が確実に出てきますし、わたしたちのようなベンチャー企業に対しては、そうした批判や炎上が起こりやすいことも事実。だからこそ、セキュリティのプロとして、「何事にも100%の安全などない」ことを心に刻み、あらゆる面での防御を行いながらプロジェクトを進めたいと思っています。
日本における地方自治体のDXという大きな取り組みをエルテスが成功に導く——。それをやり遂げることで、いまだ大企業至上主義が残っている日本社会の空気も変えていきたいですね。
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※1 エルテスでは、従来の警備業態にデジタル活用を推進することで、よりセキュアで効率的な変革を促進するコラボレーションやソリューションを「AIセキュリティ事業」と定義。
※2 電子政府先進国であるエストニアにおいて、電子政府の基盤となるシステム「X-Road」でのデータベース連携のセキュリティシステムの構築、電子投票ソフトウェアの開発を行うなど、電子政府プロジェクトにおいて優れた実績を保有する企業。
※3 遠隔教育や医療、ドローンによる自動配送や自動車の自動運転、キャッシュレス決済など、地域の課題を解決するための先端技術を実装した「未来都市」を、国や地域、事業者が一体になって実現させようという取り組み。
プロフィール
菅原 貴弘(TAKAHIRO SUGAWARA)
株式会社エルテス 代表取締役 東京大学在学中の2004年にエルテスを創業。インターネット掲示板、ブログ、SNSなど新しいテクノロジーが生まれるたびに、その反動で発生するトラブルに着目し、デジタルリスク事業に取り組む。2016年11月に東証マザーズ上場。また、リスク情報分析と危機対応支援を行うAIセキュリティ事業を手がける戦略子会社を2017年に設立するなど、リスク検知に特化したビッグデータ解析ソリューションを提供する事業領域を拡大させている。
三川 剛(TAKESHI SANKAWA)
株式会社エルテス 執行役員 リスクコンサルティング本部長 兼 事業戦略本部長 富士銀行に入行後、ボストンコンサルティンググループを経てドリームインキュベータの創業に参画。その後アドバンテッジ・パートナーズ、アファリス創業などを経てgumiに入社。執行役員事業戦略事業室長を歴任後、トランスコスモス株式会社へ。 2020年、株式会社エルテスに入社。子会社設立、新規事業であるDX推進事業を主導。