エルテスの基盤であり未来でもある、「Webリスクモニタリング」が目指すもの

2020年版情報通信白書によると、2019年の国内SNS利用率は69%。前年よりも9%上昇している。なかでも10代、20代、30代の利用率はいずれも80%を超えており、「ほぼ全員が利用している」といっても過言ではない状況だ。そして、それにともなって「ネット炎上」「SNS炎上」というリスクが顕在化してきている。さまざまな言葉が飛び交うSNSやネット掲示板を監視し、炎上につながりうる投稿を早期発見するサービス「Webリスクモニタリング」をいち早く手がけ、基幹事業としてきたエルテスは、こうした状況のなか何を見据えて、どんな活動を展開しようとしているのか。リスクコンサルティング本部の國松諒に話を聞いた。

サービス開始は2011SNS時代を予見して先駆者に

──エルテスがWEBリスクモニタリングをサービスとして確立させたのは2011年のこと。当時はまだ「ネット炎上」が一般的ではなかったように思いますが、どういった経緯でサービスをスタートさせたのでしょうか。

國松 サービスの開始こそ2011年ですが、エルテスは2007年の時点でWebリスク対策サービスを立ち上げ、2010年にはSNS関連のリスクデータの収集をはじめていました。背景にあったのは、社会の急速なデジタル化です。日本でも2005年頃からブログサービスが増え、2007年にはiPhoneが発売。そして、2008年にはTwitterとFacebookが日本でサービスを開始しています。そうした状況のなか、「このまま社会のデジタル化が進み、人びとの社会行動が変様すれば、これまでになかった新しいリスクが生まれるはず」という思いから、SNSの監視を事業化したというのがおおまかな経緯ですね。

当時のデジタルリスクは、ブログや掲示板に書き込まれる誹謗中傷などでしたが、わたしたち見据えていたのは“その先”。リスク・インテリジェンスという考え方を前提に、顕在化する前のリスクに対応するために、ネット上を監視する技術をつくろう、というのが出発点でした。

──その予想通り、デジタル化に伴う「ネット炎上」をはじめとする新たなリスクが顕在化しました。

國松 なかでも象徴的だったのは、2013年から2014年ごろのバイトテロブームです。不適切な画像や動画の投稿がブーム化したために、ネット炎上が世間的にも注目されるようになりました。それ以降も新たなリスクは増えつづけており、2016年にマイナンバー制度が開始された際には、大規模な個人情報流出事件も相次いでいます。そして、そうした流れに対応するために、エルテスでは2017年に団体あるいは企業内部からの情報漏洩・内部不正リスクを検知する「Internal Risk Intelligence※1」の提供もスタートさせました。

リスク要因の検出・分析だけでなくコンサルタントによるクライシス対応まで実施

──あらためて「Webリスクモニタリング」とはどんなサービスなのか、詳しく教えてください。

國松 TwitterをはじめとするSNS、ブログ、ネット掲示板などに投稿された情報のなかで、クライアントのブランドや商品、サービスに関する風評や情報漏洩のリスクを24時間365日監視するサービスです。具体的には、Web上の膨大な公開情報のなかから特定のキーワードを含む情報を収集し、AIと専門スタッフが監視していくというものです。Web上のデータは膨大なので、これまで弊社が蓄積してきたデジタルリスク関連データを教師データとしてAIに学習させ、AIでの判定も進めています。最終的には、専門スタッフが、投稿がネガティブなのか、ニュートラルなのか、ポジティブなのかを確認し、危険度をスコアリングするという仕組みになっています。

「AIだけで見ているのではないのか?」と感じられた方もいらっしゃると思いますが、弊社ではAIと専門スタッフのハイブリット形式を採用しています。AIはパーツの収集やスコアリングは得意ですが、文章の意味や文脈まで正確に読み取らせるのは難易度が高い。なかには、「危険度のスコアは高いのに、実際にはポジティブな投稿だった」という事例もあります。ですから、そういった投稿については、専門のスタッフが目で見て判断するようにしているんです。AIと人の目を組み合わせることで、より精度の高いリスク検知を行う。それがサービスの大きな特徴でもありますね。

※エルテスの提供するWebリスクモニタリングの概要図

──近年は、同じようなネットのモニタリングサービスを提供する会社も増えつつあります、競合他社と比べた際のエルテスの強みを教えてください。

國松 エルテスは、テックドリブンな技術者集団というよりも、「デジタルリスクと戦い続ける」ためのソリューションを提供する会社です。言ってみれば、リスクコンサルティングの手段のひとつとして、テクノロジーを活用しているようなイメージですね。単にサービスを提供しているのではなく、お客さまに担当コンサルタントをアサインし、風評被害対策や情報漏えい対策など、ニーズに合わせた情報を毎月提供しています。もちろん、リスクが検知された場合には緊急通知をおこない、論調把握や初期対応のコンサルティングも行います。

たとえば、お客さまに関するネガティブな投稿が急増している事案があったとしても、ごく一部の人たちが粘着して企業の悪口を書いている状態と、みんなが「あそこは悪い」と言っている状態では、リスクの質も対応もあきらかに異なりますよね? だからこそ、誰がどんな意図で、どれくらいの頻度でどのメディアに書いているのか、その情報には信ぴょう性があるのかなどをしっかり分析して、影響力やリスクの質、対応策を見極めること。そして、初期対応についてきちんと支援することが大切なのです。その他には、従業員向けにSNS教育を行う研修などを通じて、SNS炎上を抑止するサービスも提供しています。

──モニタリングやリスク分析における“見極め”について、具体的な事例があれば教えてください。

國松 ある大手企業が新しいテレビCMを放映したところ、そのCMに関するネガティブな投稿がネット上に急増し、「炎上した!」とWebメディアが記事を配信しました。しかし、実際に分析してみると、その多くは某ネット掲示板に集中的に書き込まれたものだとわかった。さらに分析すると、ネット掲示板に書かれていたのは、企業やCMに対しての投稿ではなく、CMに出演する女性俳優に対する悪口でした。

つまり、その女性俳優にニュースバリューがあったため、ネット掲示板の書き込みを見たWebメディアが「CMが炎上した」と報じ、その記事を見たアンチを含むユーザーが面白おかしく取り上げたというわけです。この場合は「本質的な批判ではなく、企業ブランドの毀損につながらない」と結論づけることになります。

──逆に、深刻なリスクだと判定したときの対応はどのようになるのでしょう? 参考までにお聞かせください。

國松 プレスリリース作成や記者会見トレーニングなどを含め、必要に応じた危機管理・広報対応の支援を行います。最近は、炎上した企業の謝罪文が「謝罪になっていない」「反省していない」などと批判されて、さらなる炎上を呼ぶケースも増えていますから、その点にも十分留意する必要があります。

大企業から中小企業まであらゆる企業が公開情報を活用する時代に

──現在、どれくらいの企業がエルテスの「Webリスクモニタリング」を利用しているのでしょうか。

國松 常時モニタリングしているのが500社ほどで、一時的な利用を含めるとのべ1000社以上のお客さまにサービスを提供しています。

ネット炎上が話題になった2010年代前半に比べると、業種や業態にかかわらず、大手企業の多くはなんらかの形でデジタルリスクに対応するためのサービスを導入しています。ただし、そこで見ているリスクは「ネット炎上」に留まらなくなっています。大手企業であれば炎上に対して一定の耐性ができていて、ひと昔前のように過剰反応することは少なくなっているからです。なのでモニタリングするリスクは「炎上の次のフェーズ」に移っている印象があります。

──「次のフェーズ」というのは、どんなものなのでしょう。

國松 いろいろありますが、わかりやすいのは潜在化したリスクの抽出です。サイレントクレームと呼ばれることもあります。SNSが普及した結果、ユーザーは製品やブランドに対する不満や嫌悪感を、何気なくSNSで発信するようになりました。かつては誰の目にも止まらなかった負の意見が、現代ではデジタル上に表出します。それを放置すれば他の人に悪評が伝播します。逆に先手を打って不満を解消すれば、好印象を獲得することもできます。

他にも、ブランドの不正利用、製品の不適切な利用による健康被害、社員による情報漏洩など、より経営危機に直結するリスクを発見することも可能です。

諜報機関や報道機関がオープン・ソース・インテリジェンスを使って情報を収集・分析しているのと同様、一般企業もそうした情報を経営判断にうまく活用していかないといけません。

しかも現在は、それを「やったほうがいい」というフェーズから、「やらなければ相対的に後れをとる」というフェーズに入っているように感じます。企業側の目線からみれば、デジタル空間には経営判断のヒントとなるお宝がごろごろ転がっているようなもの。活用しない手はないでしょう。

そして、あえて潜在化したリスクを抽出するのであれば、Webのモニタリングはますますその重要度を増していくはず。わたしたちはそう考えています。

──潜在的なリスクへのアプローチ重要度を増すなか、デジタルリスク事業として、新たな計画はありますか?

國松 誰もがアクセスできる公開情報を、企業が抱えるデジタルリスクの検知だけでなく、企業活動にも広く活用する——。現状、そうした活動を行っているのは、大企業がほとんどです。しかし、デジタルリスクにさらされているのは、当然彼らだけではありません。より多くの企業がWeb上のリスクを早期に発見し、早めに手当できる環境を提供していくことが、リーディングカンパニーとしての役割だと思っています。

そこで、エルテスは2020年5月に中小事業者向けのサービス「モニタリアン※2」を開始しました。これは、一つのアプローチに過ぎませんが、「デジタルリスクと戦い続ける」ためのソリューションを、開発し提供し続けたいと考えております。

 

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※1 さまざまなログデータから「ヒト」の行動を解析し、企業内部での「異常行動」や、 その「動機」「可能性」「兆候」を持つ人物を検知・可視化し、重大なインシデントの発生を未然に防ぐことのできるサービスのこと。

※2 月額30,000円で、ネット中傷や風評被害を最小化するサービス。エルテスが培ったノウハウを生かし、簡単な設定を登録するだけでSNSモニタリングが開始できる。

プロフィール

國松 諒(MAKOTO KUNIMATSU)

國松 諒(MAKOTO KUNIMATSU)

リスクコンサルティング本部 第1セールス部長 兼 第1カスタマーサクセス部長 2015年エルテス入社後、デジタルリスク事業のセールスおよびカスタマーサクセス担当者として、500社以上の企業案件に従事。2019年より現職に就任し、日々変化するデジタルリスクの中で、事業活動を通して企業を取り巻くリスクとその対応策を開発、提供を行っている。