オガールで注目される紫波町で踏み出す第一歩——。地方都市DX推進のプラットフォーマーを目指す!

エルテスが新たに本格参入する「DX推進事業」。中でも現在注力しているのが、昨年末に連携協定を結んだ、岩手県紫波町のDX化プロモーション推進。ここでは、紫波町を舞台に数々のチャレンジを行う2人のキーマン・近藤浩行と芳井圭佑に、プロジェクトの現在と未来について聞いてみた。

地方都市DX推進の実績を、創業者の“故郷”から積み上げていく

——エルテスは昨年12月、岩手県の紫波町と「デジタルの力で町を活性化させる」ことを目的とした包括連携協定を締結しました。まずは紫波町について話を聞かせてください。

近藤 紫波町は盛岡市の南に位置する人口約3万3千人の町。盛岡のベッドタウンとして注目されると同時に、過疎化や高齢者対策などの問題に対して先進的な取り組みを行うことでも知られる自治体です。なかでも民間の力を活用した「オガールプロジェクト(※1)」は、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ。公民が連携して公共サービスの提供を行うスキームのこと)の成功例として、全国の自治体から視察が絶えないほど大きな注目を集めています。

——オガールプロジェクトとは、どのような取り組みなのでしょう。

近藤 「民間の資金や能力を導入して、地域の課題解決や活性化を推進する」というのがオガールプロジェクトの特徴です。地方自治体の公共事業というと、国から補助金をもらい民間企業から入札を募って……というイメージがあると思いますが、オガールプロジェクトでは民間主導でスピーディに公共事業を進めています。そうした活動をみていると、民間の力の生かし方が非常にうまい自治体だと感じますね。

——先進的な取り組みで注目される紫波町とエルテスが、連携協定を結ぶことになったきっかけは何だったのですか?

近藤 実をいうと、紫波町はエルテスの創業社長である菅原の出身地でもあります。そんなこともあって、紫波町が行政サービスのデジタル化に課題意識を持っているという話を聞いたときに、「ぜひ連携して進めていきましょう」と連携協定を提案させていただきました。

現在は、「ICTを活用したデジタル化推進に向けた取り組みを行い、住民サービスの向上及び地域課題の解決を図る」という目標を掲げて活動を行っているのですが、紫波町の皆さんはとても歓迎してくださっており、素晴らしいパートナーシップが組めています。

芳井 エストニアの電子政府化を実現させたサイバネティカ社との連携をはじめ、エルテスではDX推進事業におけるステップを着実に踏んできました。とはいえ、実績という面ではまだまだ。だからこそ、いまはひとつでも多くの実績をつくることが必要です。そういう意味で、紫波町とのパートナーシップは、私たちにとって「不可欠なもの」ですし、民間の力を借りて町のデジタル化を推進したいと考えておられる紫波町の側も同じ思いを持ってくださっています。

DX推進事業のこれまでの経緯と狙いに関するインタビュー記事はこちら

誤解を恐れずに言うならば、先進的な取り組みを実証実験的にスピーディに行っていくという点でも、紫波町は最高のパートナーです。オガールプロジェクトで、公民連携の成功体験も持っているうえに、町の大きさや人口などの規模感もリアクションを受け取りやすい。デジタルPFI(※2)と呼ばれる公民連携のスキームや、UXP(※3)を活用した都市OSの実装など、当社がこれまでに蓄積してきたツールやノウハウを、大いに生かせる連携先だと思っています。

住民、自治体、企業のそれぞれにベネフィットを用意する

——紫波町との包括連携協定においては、現在どのような施策が進行しているのでしょう。

近藤 市民のための地域課題解決型サービスを集約する「市民総合ポータル」など、さまざまな取り組みがスタートしています。ユニークな取り組みとしては、「お散歩アプリ」の開発があげられますね。このアプリは、お散歩というキーワードで地域活性化や住民の健康増進、さらには行動・関心のデータ化を目指すもの。町を歩く距離などに応じて、民間企業からポイント、サービスなどの特典が提供されるような仕組みも構築していく予定です。

また、そうしたデジタルPFI構想に基づく活動に加えて、オガールプロジェクトの視察研修をデジタル化する取り組みも進めようとしています。紫波町の行政視察件数は常に全国トップで、コロナ前までは数多くの団体が町を訪れており、様々なコンテンツを整備したうえでの視察研修も行っていました。

——とはいえ……。コロナ禍の影響で、リアルな視察が難しくなっているのではありませんか?

近藤 その通りです。それもあって、“リモート視察”ができるようなデジタルコンテンツの開発が必要になった。オガールプロジェクトの取り組みはもちろん、町のアピールも含めた配信用のプログラムをつくって、地域活性化につなげていく。それが当面の目標ですね。

そのほかにも、企業版ふるさと納税(人材派遣型)制度を活用したDX人材の確保や、空き家対策など地域の課題をデジタルで解決するための施策。そして、紫波町が以前から進めてきた「オンデマンド交通(※4)」をさらに進化させるための取り組みなども進めています。

「JAPANDX、ドコモ・システムズとパートナー契約を締結し、企業版ふるさと納税(人材派遣型)を推進」に関するプレスリリースはこちら

——楽しみな施策が多いですね。今後のロードマップはどうなっているのでしょう。

芳井 まずは6月末に関係者に向けて、「お散歩アプリ」と地域防災やオンデマンド交通などの情報を統合した「市民総合ポータル」のβ版をリリースする予定です。その後は、8月末をメドに住民の皆様に向けたリリースを行い、新たなサービスやアプリについても順次増やしていこうと考えています。

DX推進の第一歩として、「アプリをダウンロードして、使っていただけるか」がとても大事なので、リリースに向けては町の協力を得ながら、しっかりとアプリのPRを行いたいですね。

——先陣を切ってリリースされる「お散歩アプリ」について、もう少し詳しく教えてください。

芳井 近年は、医療や健康に関わるデータをユーザー自らが管理するPHR(Personal Health Record)への関心が高まっており、GPSで歩く距離などを記録するアプリが多くの自治体で検討されています。

当社の「お散歩アプリ」も機能的には似ているのですが、PHRの取得というより、純粋に散歩を楽しんでいただくためのアプリになっているのが特徴です。観光名所や歴史散策などのコンテンツも充実しているので、紫波町に住んでいる方だけでなく、観光で町を訪れた方にも便利に使っていただけるはず。また、先ほどお話したように、歩く距離などに応じて、民間企業からポイント、サービスなどの特典を提供するなど、幅広いユーザーが楽しめる仕掛けも用意していきます。

——そうやって散歩をエンジョイすることが、地域住民の健康促進につながるというわけですね。

芳井 加えて、自治体の側はPHRや行動データなどが取得できますし、民間企業は特典の提供を通じてビジネスチャンスを得ることができる。ユーザーである住民と自治体、そして企業がそれぞれにベネフィットを得ることができるアプリになっているんです。

標準化プラットフォームの開発と、DX人材の育成に注力していく

——紫波町での取り組みは、全国の各自治体に横展開していけるのではないでしょうか。

近藤 紫波町との取り組みで実績を積み上げ、そこで得た知見や仕組みを他の自治体に横展開し、デファクトスタンダードをつくりあげていく。そうやって、内閣府が進める「スーパーシティ」構想に貢献していくのが理想です。

そのためにも、自治体の枠を超えて活用できるアプリや、行政から民間までさまざまなサービスが相乗りできるプラットフォームなどの開発を進めて、地方自治体のDX化におけるプラットフォーマー的な立場を築いていきたいと思っています。

——6月15日にはエルテスの本店を岩手県の紫波町に移転するなど、紫波町との連携協定(※4)に対するグループの意気込みは、かなりのものだと推察します。そうしたなか、エルテスとしてさらに注力していこうと考えている取り組みはありますか?

近藤 エルテスとして本店を移転するだけでなく、昨年12月に立ち上げた子会社のJAPANDXも紫波町に拠点を構え、地方DX推進の主導的役割を担います。今後、注力したいのは人の問題です。DX化を推進する人材は世界的に不足しており、なかなか地方で採用することが難しい。そうした中、企業版ふるさと納税(人材派遣型)の仕組みを活用したい自治体に対しては、企業側の人材とマッチングさせるスキームなどを通じて貢献していきたいと考えています。

また、地方における教育に関しても色々と考えています。例えばエルテスやJAPANDXの人材が先生役となり、地方の中高生など次代を担う若者にDX教育を行っていくような取り組みがあってもいい。廃校などを活用して、放課後にプログラミングを教える「デジタル人材学童」についても、検討していきたいと思います。

株式会社エルテス、岩手県紫波町への本店移転に関するプレスリリースはこちら

芳井 地方におけるDX推進事業については、すでに他の自治体からもさまざまなお話をいただいています。もともとエルテスはデジタルリスクの会社ですが、デジタルリスクは社会がデジタル化されてはじめて顕在化するもの。その点でいくと、日本ではまだまだ整地されていない領域が多くあり、地方からデジタル化を進めていく意義は十分にあります。

これから私たちが踏み出していく一歩一歩が、エルテスのデジタルリスク事業の成長につながっていく——。それを認識しつつ、いろいろなことにチャレンジしていきたいですね。

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※1 オガールとは、紫波の方言で「成長する」を意味する「おがる」と、フランス語で「駅」を意味するGareを掛け合わせた造語。公民連携の駅前開発プロジェクトとして平成21年にスタートした。

※2 民間企業のサービスやテクノロジーを集結し、地方自治体に効果的に還元することで、市民生活の向上ならびに自治体のDXを強力に後押しすることを目的とした構想。ICTを活用した地域課題解決型サービスの導入を推進し、住民・地方公共団体・民間企業が相互にメリットを得られる機動的なDX推進を目指す。

※3 「UXP」は、デジタルガバメント先進国であるエストニア・サイバネティカ社の電子政府基盤システム「X-Road」を発展させて開発したデータ連係技術。エストニアでは、「X-Road」を活用した、様々な行政サービスが提供されており、納税、警察、教育、選挙、会社登記等の行政サービスを、電子IDカードを用いてワンストップかつペーパーレスで利用することができる。

※4 紫波町では、AIを使った需要予測やアプリによる予約システムなどを組み合わせたデマンド型乗合バスを2020年から整備。住民からの公募によって「しわまる号」の愛称がつけられた。

※5 JR紫波中央駅前のオガール施設内にあるシェアオフィスの一角に創設。ここを起点にDXを通じた地方創生事業を展開していく(東京の事業活動拠点は引き続き東京本社)。

プロフィール

近藤 浩行(HIROYUKI KONDO)

近藤 浩行(HIROYUKI KONDO)

株式会社JAPANDX 取締役 株式会社エルテス 第2カスタマーサクセス部長 中央大卒、日本アイ・ビー・エム(株)入社。大手企業、政府のITコンサルセールスを経験後、金融担当として『みずほ銀行統合プロジェクト』のセールスマネジメント統括。エルテスでは既存顧客向けのデジタルリスクの統括やクラウド・セキュリティ診断を含む脆弱性診断サービスの推進などを担い、2020年12月に設立された株式会社JAPANDXの取締役に就任。

芳井 圭佑(KEISUKE YOSHII)

芳井 圭佑(KEISUKE YOSHII)

株式会社エルテス 事業戦略本部DX事業部 JAPANDXグループ 大学卒業後、出版社で広告営業に従事し各種メディアミックスや新規媒体のプロデュースを手掛けた後、スタートアップ取締役、一部上場子育て支援事業会社で自治体官公庁向けサービスの事業開発責任者を歴任。2020年エルテスに入社。