
人と組織がともに育つ、組織デザインの最前線
来年、上場10周年という節目を迎えるエルテスは、現在グループ13社体制でそれぞれの事業領域において着実な成長を遂げています。その拡大の原動力となっているのが、社員一人ひとりの自律的な成長と、それを支える人的資本への投資です。
今回は、社員が自ら学び、成長するための教育制度について、人事/労務グループの山本さん、中右さんにお話を伺いました。キャリア形成や組織全体の成長に資する教育制度の構築について、制度設計に込めたリアルな声をお届けします。
「透明性の高い組織」を目指して
――まずは、人事/労務グループの業務についてお聞かせください。
山本 経営戦略を達成するために、人事戦略を経営戦略と連動させ、風通しの良い組織文化を形成することをミッションとしています。具体的な取り組みとしては、社員一人ひとりがどんなプロセスで仕事をして、どんな成果・数字を生み出しているのかをオープンにし、透明性の高い状態にすることを目指しています。そうすることで、経営戦略達成のための現状の課題が可視化され、経営層と現場の社員が協力してその課題にコミットできるようないい環境が生まれると考えています。
また、人事戦略の重要な目標の一つが人的資本投資の強化です。社員の日々の生活を支える給与支給や福利厚生といったルーティン業務、常時発生する社員からの問い合わせ対応などの業務も、社員のモチベーションを高め、風通しの良い組織を作るための人事/労務グループの重要な役割だと考えています。
――山本さんご自身の他部署との関わり方や、社内でのポジションについても教えていただけますでしょうか?
山本 人事/労務グループだけではなく、法務グループ、総務/情報システムグループを統括する組織マネジメント本部の責任者という役割を担っています。意識的に、他部署の部門長の方々とコミュニケーションを取ることを心がけていて、課題感は日々ヒアリングしています。その結果、何か問題が起きた際にも他部署の部門長の方々からすぐに相談していただけていると感じています。相談内容によって、どこの部門で対応していくかを振り分けています。
人事/労務グループは、人事領域で経験を有したメンバーが多く、自立しているので非常に信頼感があります。日々のルーティン業務など基本的なことは、全てお任せしています。また、突発的な相談事が発生した際の対応や、今後の対策においても、メンバーから懸念点を挙げてもらったり、方向性について知恵を出してもらったりして、一緒に議論しながら、業務を進めています。
中右 山本さんは「こうしたい!」、「こうしよう!」というエネルギーのある方です。組織全体をデザインするという高い視座から、いかに会社を良く変えていくかを考えているので、山本さん参画後、部署のエンジンのギアが一段階上がったように感じています。

山本 そう言ってもらえると嬉しいです。私自身のもう一つの役割は、エルテスグループ全体のコーポレートガバナンス体制を整えてくことだと思っています。組織デザインの観点から見た際、エルテス単体ではなくグループとして上場しているので、子会社の統制、管理監督も上場企業として責任があります。方向性やコンセプトについては、エルテスやグループ会社の経営陣とも相談しながら、段階的に着手しています。
――エルテスの人的資本投資について、具体的にどういう取り組みをされているのか、全体の構想を教えてください。
山本 まず、先ほどもお伝えした通り、社員の業務プロセスを可視化することが、喫緊の課題だと認識しています。各業務には関わる人数に応じて人件費が発生しており、それぞれの費用対効果を明確にすることが必要です。さらに、部門や個人を正しく評価するためにも、ROI(投資利益率)を測定することが重要です。こうした指標が整備されて初めて、「社員一人ひとりがどれだけ価値を発揮しているのか」「生産性をどう高めていくか」といった経営において見るべき指標が把握できます。生産性が高まれば高まるほど、給与や報酬にも還元できると考えています。
一方で、私の入社以前から問題として挙がっていたのが、賞与が業績の影響を大きく受けるということでした。エルテスでは、昇給の際に基本給が比較的大きく上がる傾向があります。これは良い面もありますが、原資の多くが昇給に充てられている分、賞与の原資確保が難しくなってしまうというリスクもあると考えています。決して社員への還元額を下げているわけではないのですが、こうした実態は人事制度に詳しくない社員には見えにくいものです。
だからこそ、こうした事情をオープンにし、説明責任を果たすことが重要ですし、それは経営側だけでなく、現場側にも求められる姿勢だと考えています。そのためにも、経営層と現場の双方がきちんと理解し合える場をつくることが重要になります。私はその橋渡しとなるような、ハブ的な役割を担いたいと考えています。そして、相互理解を通じて得られた情報を制度として形にし、継続的に機能させていくことが今後の大きなテーマだと捉えています。
社員の努力が会社の成長につながる
――ここからは、具体的な教育制度についてお伺いしていきたいと思います。まず、4月に新設された資格手当制度は、どのような意図で設立されたのでしょうか?
中右 会社の役に立つ人材を育成すること、会社への貢献度が高い人に対してより還元することを目的に、その報酬としての支給制度を検討していました。考え方としては賞与に近いところがありますが、賞与の場合は会社の経営状況や、上司からの評価に拠る部分も大きいので、自分自身の努力次第でコントロールできる資格手当制度を新設しました。
制度導入後の反響としては、もともと対象となる資格をすでに保有していたメンバーから喜びの声が上がった一方で、人事として各人の見えていなかったスキルを知る機会にもなりました。また、資格手当制度の存在をきっかけに新たに勉強を始めた方も出てきています。特に、日々の業務がルーティン化して慣れてきたと感じていた社員にとっては、新しい刺激やモチベーションのきっかけになっているようです。社員の中には、リスキリングや学び直しの必要性は感じているものの、「何を学べばよいかわからない」と迷う人も多いのが実情でした。そうした人にとって、会社として推奨している資格があるというのは、方向性が見えやすく、行動に移しやすいと好意的に受け止められています。
この制度は、2024年2月期の下期に当時の管理職を対象にアンケートを実施し、自部署や全社として、「どんな資格があれば業務の質が上がるか」という観点で意見を集約した結果、構築されたものです。制度開始から約4ヶ月が経過した現在(8月時点)で、新たに資格を取得した社員は10名程度(全体の1割程度)ですが、資格受験に向けた事前申請も続々と届いており、今後さらに取得者は増えていく見込みです。
また、教育環境の整備の一環としてオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」も導入しました。導入の結果、意外な人が意外なテーマで勉強していることが見えてきました。業務に直結する内容はもちろん、業務外の分野にも興味関心を持ち、自主的に勉強できる場を提供できたことはよかったと思っています。
山本 社員が事業や会社に対して役立つ資格を取得することで、その知識やスキルを会社に還元してくれることが第一の目的です。それと同時に、社員自身にとっても、長期的にキャリアを形成できるだけではなく、資格手当という形で短期的なメリットが得られます。こうした仕組みによって、社員の勉強意欲、成長意欲を後押ししたいと考え、導入に至りました。
ただ、人事責任者としては、目線は高く持っているので、まだまだ自主的な学習や、資格取得などのスキルアップに取り組む社員が少ないと感じています。Udemyも人事側から紹介して受講することはあっても、自ら進んで学ぶ人は限られています。多くの社員が日々の業務から学ぶスタイルにとどまっているのが現状です。
だからこそ、社内のコミュニケーションをさらに活性化し、課題意識を持って対話する場を増やす必要があると考えています。対話の中からこそ、気づきや成長の機会が生まれるのです。そのためにも、これはまだ構想の段階ではありますが、Udemyで勉強したことを共有する会などの促進施策も実現できたらいいと考えています。
――様々な教育制度を新設する背景には、どのような考えがあるのでしょうか?
山本 組織デザインの重要な柱の1 つが教育だと考えています。私が入社した時に、当時の社内の人的資本投資の分析を実施しました。その結果、中途採用に年間で多額の投資を行っていることが分かりました。一方、教育への投資ができていない状況でした。客観的に見て、「教育に力を入れていない会社」と見なされても仕方がない。なので、まず長くエルテスで活躍し続けてもらうために、社員が成長できる教育基盤を作り、頑張る価値のある会社という環境を整備する必要性を強く感じました。現在の理想は、採用経費を下げつつ、教育に力を入れ、人材の量ではなく質を上げていく、つまり、社歴の長い社員の方が新しい世代を育てていけるような好循環を作っていくことです。
もちろん、会社としての新陳代謝も必要です。しかし、単体で約120名、グループ全体では約470名という規模になり、今後時価総額200億円超を目指す立ち位置を考えると、これからはどれだけ組織の安定性を築けるかが重要になってきています。
エルテスは、プロダクトはあるものの製造業と違って物を売っているわけではありません。つまり、あくまでエルテスで働く人そのものが見られ、人的資本投資の観点から、「人にどれだけ投資をしている会社なのか」が問われます。人が辞めずに、会社の中で着実に成長していることが、人的資本への本質的な投資の結果であり、これからのフェーズで最も重要視されるポイントになると考えています。
――研修制度について、今後考えていることはありますか?
山本 現在、マネジャーを対象とした養成講座は実施していますが、部長を対象とした講座がないので、今後新規講座の開設を検討しています。また、スキルアップ養成講座についても、現在はWebマーケティングスキルを養う養成講座のみなので、専門スキル向上の講座をさらに増やしたいと考えています。現場の声を反映することが最良だと思いますので、社員のみなさんからの講座開設の要請も受け付けています。
中右 マネジャーに向けて管理職養成講座を半期単位で継続的に実施していますが、今回の講座では、受講者から満足度100%を獲得することができました。これまでは、既存の部長とマネジャーを対象に実施していましたが、経験の長さや、ポジションの違いからくる視座の高さの違いで、一部の人には刺さらない内容もあったのが実情です。そこで今回は、「マネジャーを養成すること」に重きを置き、新任マネジャーとマネジャー候補者をターゲットに設定し、限定的な講座にしました。特にマインドセットや、理想的なマネジャー像、目標管理などについて学びます。ここでもUdemyを用いて心理学なども絡めつつ、体系的な講座にすることが高い満足度に繋がったと考えています。このように、既存の講座も工夫を凝らし進化させつつ実施しています。更に良くしていくために社員の皆さんからの声も取り入れていきたいと考えています。

山本 会社としてのさらなる成長のためには、自らが先頭に立って社内各部署の課題解決に取り組むリーダーシップのある人材が必要です。なので、リーダーを増やす活動の必要性から、今回新たな研修も実施しました。経営層の繋がりから、様々な経歴を持つ方々をお招きし、経験談や価値観のお話を社員に聞かせてもらう「エルテス大学リーダー養成講座」です。この講座は半期に 1 回のペースで継続的に実施していこうと考えています。
今後はさらに、エンプロイサクセス(社員が企業での仕事や様々な活動を通して、仕事上での成長/成功を得ること)のために、みなさんが思い描くキャリアを共有し、そのキャリアを得るためにやるべきことを話し合える場も設けたいと考えています。自分の考えを声に出し人と共有することで、自分の中だけの考えから一歩踏み出し、会社の中で行動に移す人が増えることを期待しています。それを支援するメンター制度があってもいいかもしれません。さらに、将来的にはアルムナイ(退職者)ネットワークの実現も視野に入れ、会社との縁が続く場づくりも進めていきたいですし…。などなど、私の頭の中にはやりたいことがたくさんあります。
エルテスは、努力を捧げる価値がある会社
――教育を通じて、今エルテスで働く社員にはどうなってほしいと考えますか?
山本 社員のみなさんには、夢や目標を持ち、自分のやりたいことにチャレンジして、それを実現できる人になってほしいと思っています。そして、そのために必要な力も身に付けてほしいです。夢や目標に大小は関係ありませんし、もちろんプライベートなことでも構いません。エルテスに限られた夢や目標ではなくてもいいと思いますが、大切なのは、エルテスにいたという事実や、エルテスでの時間が、みなさんの人生の過渡期において心の拠り所となることです。もし、その過程で会社にも何かしらの形で還元してもらえたら嬉しいですね。
給与をはじめ、生活が安定して、ワークライフバランスが取れていないとそもそもチャレンジすること自体できないので、そういった環境を整備することが私たちの責任だと思っています。
中右 私は、周囲を巻き込みつつリードしていけるような人材が増えると、会社の成長速度が上がっていくと思います。自分が見聞きしたことや、経験からくるアドバイスなど、後輩をはじめとした周囲の人に教えてあげたいと考えている、もしくは、その素質がある人は多いと思うのですが、今まではその意欲を会社として評価できる体制がなかったですし、そもそも可視化できる状況になっていませんでした。それが見える状況に体制を整備することで、知識が継承され、教えられた人が伸び、また知識を進化させる、という好循環が生まれると思います。
可視化の手法の一環として、教育・研修という観点では、「自分の得たものを会社に還元すること」に価値があると感じる人が多いと嬉しいです。そういった意味でも、さきほど山本さんが仰っていた、Udemyで勉強したことを共有する会などは、ぜひ実現していきたいです。
山本 エルテスは20代で管理職以上、頑張り次第では執行役員まで目指せる環境があります。大手企業の場合は、10年かけても管理職になれない企業もありますし、グロース市場の上場企業でも、ここまで挑戦が歓迎される環境の会社はあまりないかと思います。
20代で管理職を経験できる、という点はその後の人生で大きな財産になりますし、実際に、20代で管理職を経験した人は、40~50代で経営層まで登りつめることができるというデータもあります。この環境を自身の成長の機会と捉え、10年分の努力をエルテスに捧げることで、将来、他者と一線を画す実力を身につけられる可能性があると考えています。
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プロフィール
山本 拓 (Taku Yamamoto) |
中右 玉緒(Tamao Nakau) |
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