
「社内アクティビスト」という新しい経営変革モデルの真意を、取締役副社長にきく
2026年2月期第2四半期の決算説明資料では、新たに組成した社内アクティビストチームを中心に、大胆な戦略転換を発表しました。その中心となる存在「社内アクティビスト」を提唱するのが、副社長・伊藤豊さんです。来年、上場10年という節目を迎えるエルテスの転換期を担う、「社内アクティビスト」の役割についてお話を伺いました。
――現在のエルテスにおいて、「社内アクティビスト」を新設したきっかけは何だったのでしょうか?
伊藤 そもそもの経営陣の想いとして、成長に向けて現状を脱却していきたい、「このままではまずい」という危機感があります。また、東証のグロース市場に対する市場改革(「上場後5年以内に時価総額100億」という上場維持基準の引き上げ)により、東証自体が良い意味でアクティビストのような役割を果たし始めており、エルテスの危機感・経営改革の必要性を後押ししているという背景もあります。

社外取締役から社内取締役になり、更に経営改革を推進していくというのは珍しいケースかと思いますが、だからこそ、社長とも対等にディスカッションができ、「聖域なき改革」ができると考えています。実際に、一般的には創業社長に対してなかなか言えないようなことも含めて経営のアジェンダとして議論し始めています。
私が外から見ていて、エルテスの企業価値を上げていくために必要だと感じていた議論が、社長や取締役間、そして社内の幹部チームの会議でもできるようになってきました。こうした動きは、まさに「アクティビスト投資家」みたいなものだね、と。もしアクティビスト投資家がエルテスに注目した場合に要求するレベルの経営改革を先回りして、社内の人間で議論しているという意味で、これはまさに「社内アクティビスト」じゃないか、ということで、あえてこのワードを掲げて、経営改革を進めようとしています。
社内外に、「それぐらい大胆に経営改革やっていますよ」というPRも兼ねているわけです。
――「アクティビスト」のような役割は、本来は社外取締役や投資家が担う役割かと感じますが、社内の役職者が担う意味は何でしょうか?
伊藤 過去の「エルテスの道:副社長・伊藤豊が語るエルテスの真価と成長戦略とは?」でもお話しした通り、もともと2年間社外取締役を務め、今年の5月末から社内取締役副社長となり、経営戦略本部長も兼務する形で、経営改革に着手しています。前職では創業者として東証グロース市場への上場も経験しており、エルテスの創業者であり代表取締役の菅原とは、対等に経営アジェンダについてディスカッションできる関係性を築けています。
一般的に、社外取締役が対等に経営アジェンダを議論しようとしても、社長との関係性を意識して遠慮したり、踏み込んだ議論をするには情報が不足したり、といった事情でなかなか難しいケースが多いでしょう。また、CFOも社長の後輩や部下であるケースが多いのでなかなか対等にものを申すのは難しいケースも多いかもしれません。
その点、私は社長とは友人としての付き合いはもちろんありましたが、同じく上場企業創業者としてお互いをリスペクトする関係にもあり、対等に忖度なく議論できる関係性を築けていると思います。例えば、「エルテスにTOBがかかった場合どうするか」というような議論も菅原としたことがあります。こうした議論も、今までは誰もできてなかったので、創業オーナー経営者と対等な立場で議論できるメンバーが社内取締役にいること自体も重要かなと思います。
また、「社外取締役でもその役割は果たせるのでは?」という指摘もあるかもしれませんが、実際に自分で行動に移せるレバーを持っている今の状態の方がやりやすいと思っています。社外の時には、言いっぱなしで色々言えましたが、実態のことをよくわからない人に外からファイナンス理論にのっとって教科書通りやれと言われても、「いや、それは一般的にそうかもしれないけど」とか、「プライム上場だとそうかもしれないけど、うちは違いますよ」という風にいくらでもやらない理由を言えてしまう。実態を把握している社内の立場で言った以上自分もやる側にまわらないといけない立場であると、かなり手触り感ある形で経営のアジェンダにできます。
――「社内アクティビスト」について社長や社員の方の反応はいかがでしたか?
伊藤 社長からは「経営改革を本気でやっているのだ、というメッセージ、シグナルになるので、もっとアピールした方がいいのではないか」と言われています。また、「株価が上がり企業価値が上がるのであれば、大胆な改革だとしても、是々非々で色々なものを見直すことにも抵抗はない」とも言ってもらっています。東証の市場改革の影響はやはり大きく、それに伴い、創業社長である菅原の考え方も変わってきているので、そこに私がジョインして、より具体的な改革を進めているという構造です。

社員の皆さんの中には、そもそも「アクティビスト」という存在を誤解している方も、ちゃんと理解していない方もいるかもしれません。この場を借りて、改めて私たちの目的をお話すると、「アクティビスト投資家の先手を打って、社内からアクティビズムを実践していくことで、アクティビスト投資家のターゲットになりにくくするために経営改革を推進していくこと」です。
結果として、企業の独自性・優位性にフォーカスし高収益・継続成長する会社になることで、働く社員の皆さんのやりがい、キャリアや待遇も含めて向上していくと考えています。このあたりの考え方、コンセプトについては、書籍『アクティビズムを飲み込む企業価値創造』(日本経済新聞出版)に、「アクティビズムを先回りして経営陣が実践してくことで、アクティビストを寄せつけない経営をしていくことが一番」とあり、ヒントにさせていただきました。

――「社内アクティビスト」として現在注力していることは何ですか?
伊藤 高収益・継続利益成長企業への変革を目指した、大胆な戦略転換です。これまでは、「売上とEBITDAを伸ばしていけば評価される」という考えのもと、多角化を伴うM&Aでの拡大を重視してきました。しかし、結果として株価はむしろ低迷してしまっています。
改めて基本に立ち返り、独自性と優位性があって、マージン(営業利益率)が高い事業をやっていく方が市場から評価されるのではないかと考え、そのために、事業ポートフォリオの変革も含めて議論し始めています。現状の4つの事業セグメントは広いのではないか、子会社IPOを視野に入れていた前提ですが、エルテスがベストオーナーと言えない事業についてはカーブアウトしていくことも含めて議論しています。その前提で、まずはコア事業に集中していく意思決定をしています。
では、「コア事業以外はどうするのか」という点について、カーブアウトも含めて検討している、という話をするとそんなこと本当にできるのか?と言われることもあります。一般的に創業者は新しいことをやりたがる傾向があり、その結果として事業が多角化して膨れ上がってしまう傾向にあります。創業オーナーがやりたくて始めた事業を手仕舞いするのはなかなか難しい。でも、そういった一般的に聖域化しがちなところも含めて議論の土台に上げていこうとするのが「社内アクティビスト」の存在意義だと思います。
「そもそも企業価値を上げるためには、どうするのが良いのだっけ?」 という大胆な議論ができていること自体がエルテスにとって良い傾向であり、変革に向けたカタリスト(触媒)になっていると思います。

「社内アクティビスト」の取り組み自体の評価は、今後1~2年の中長期的なスパンで評価してもらえればと思います。企業価値向上に向けた取り組みの好事例として注目してもらえるようなインパクトのある成果を出していきたいと考えています。
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プロフィール
伊藤 豊(Yutaka Ito) |
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そして、エルテスが初めて公表した中期経営計画「The Road To 2024」に続き、第2期中期経営計画「Build Up Eltes2027」を5月16日に発表し、これからエルテスが歩むべき「道」を示しました。今回は、20年を振り返り、これから進むべき「道」について、お伝えします。




