
副社長・伊藤豊が語るエルテスの真価と成長戦略とは?
2016年11月の上場からまもなく10年という節目を迎えるエルテス。これまでも事業領域の拡大や新ミッションの策定、2025年には新規事業「AIシールド構想」がスタートし、企業成長に取り組んでいます。一方で、東証グロース市場の上場維持基準の厳格化が進むなど、外部環境も変化し、エルテスは変革期に突入しています。
その中で、大きな変化の中心には2025年5月に取締役副社長に就任し、エルテスグループ全体の経営管理・経営企画・IR機能強化などを進める伊藤豊さんの存在があります。今回は、伊藤さんにエルテスの強みや伸びしろ、そして、エルテスが成長するためのビジョンを伺いました。
「人の可能性を引き出す」ための起業と新たなキャリアの選択
――まず自己紹介と経歴を教えてください。
伊藤 新卒時は外資系企業である日本IBMに入社しました。その後、自分に適した働き方や、将来のことを考えた結果として、スローガン株式会社を起業し、17年間代表を務め、上場も経験しました。その後、代表を退任し、エルテスをはじめとした社外取締役やアドバイザー、東大創業者の会の事務局長、ルビ財団の代表理事、NPOのアドバイザーなど、様々な活動に携わりました。それらを継続しながら、現在はエルテスの社内取締役・副社長も務めています。
――起業した経緯を詳しく教えていただけますでしょうか ?
伊藤 スローガン株式会社は新産業領域に特化した就活プラットフォームやイノベーション人材向けのビジネスメディアなどを運営している会社で、「人材の最適配置」、「新しい産業への人材流入」をテーマに28歳(2005年)で起業しました。私自身が大企業で働くなかで、「大企業は仕組みが出来上がっている分、若い人が存分に力を発揮できるフィールドや機会が限られている。やる気のある才能が挑戦すべき分野は、小さい会社にもある。」ということに自らの経験を経て、気が付きました。
しかし、当時は大企業や有名企業に行くべきという固定的な価値観が社会にはあり、日本を俯瞰的に見ると伝統的な企業に人が偏りすぎて、新しい産業やスタートアップに人が少ない状態でした。
この人材配置のミスマッチという社会課題を解決するべく、会社を起こしました。

当時の日本において、ベンチャー企業やスタートアップ企業に新卒で入るという文化がなかった時代なので、私たちがスローガンでやっていたのはまさに市場を創造する仕事でした。「そういう選択をする人はいない」と言われる状況から「もっとそういう選択肢があっていいはずだ」という社会への提案として事業を創っていたので、最初の10年間はがむしゃらに働きましたし、軌道に乗るまでも非常に大変でした。
――スローガンは2021年に上場するまで成長されたわけですが、なぜ代表という立場を離れたのでしょうか?
伊藤 先ほどお伝えした通り、大変さはありつつも一生を掛ける価値があると思っていましたし、飽きることもなかったです。ただ、創業から10年たった38歳の時にある人から「伊藤さん、いつまで社長をやるのですか?」と尋ねられ、この一言が、自分自身やキャリアを深く見つめ直すきっかけとなりました。
「“人の可能性を引き出す” をミッションとして謳う会社の創業者が、ずっとトップとして居続けた場合、社内の人材の可能性を引き出すことに失敗していると言えるのではないか。若い人の可能性を引き出して、自分は引退する方がこの会社の創業者としてふさわしいのではないか。」と考え、40代で退任しようと決意しました。
――そこからエルテスの社外取締役となり、現在は副社長を務めるようになりましたが、きっかけなどはありましたか?
伊藤 退任後、菅原さんから誘われたことがきっかけでした。共に東大創業者の会を立ち上げるほど、昔から親交のある菅原さんからの声掛けでしたので、自分で役に立てることがあれば、と社外取締役を引き受けました。
そこから経営に関する相談を受けたり、経営企画部の会議に参加したりと、社外という立場から2年ほど携わってきましたが、予算管理の方法や経営の意思決定の仕方など、会社として組織運営能力を強化することで、エルテスにはもっと成長する余地があると思いました。
代表取締役を務めていた経験から、複雑な状況において的確な意思決定をするという点は鍛えられていましたし、エルテスに対して経営管理やIRも含めて経営の意思決定の精度を上げることにもっと深い部分で自分にできることがあると思い、5月からは社内の取締役副社長という立場も引き受け、経営戦略の構築を担っています。

実は、スローガン退任後は個人投資家としても活動していました。個人投資家の目線も自分自身で獲得し、上場企業に対して以前とは異なる視点を持つようになっていましたので、その視点から投資家へのコミュニケーションのあり方、株主還元の姿勢などを社外取締役の立場でアドバイスしてきました。決算FAQや株主総会の事前質問の実施などの新たな取り組みもIRチームと議論し進めてきましたので、投資家のみなさんにも、エルテスの変化を少しずつ感じていただけていれば嬉しいなと思いますし、その動きはこれからも加速させていきます。
上場企業の創業者から見たエルテスの強みと伸びしろ
――ここからは、伊藤さんから見たエルテスについてお伺いしたいと思います。まず、同じ上場企業の創業者という立場から見て、エルテスの強みはどこでしょうか ?
伊藤 エルテスの強みはやはりデジタルリスク事業の立ち位置です。
2000年前後にインターネット化という波が来た時、多くの会社はデジタルマーケティングやメディアに飛びついたわけですが、エルテスはネットの普及によって生じるSNS炎上やネット上のレピュテーションリスク対策で参入しています。いわゆるゴールドラッシュにおけるツルハシやリーバイスのようなモデルですが、少し立ち位置を変えて参入し、独自のポジションを取るところに、エルテスの魅力があり強さがあると感じています。
DX化という波が来た時にも、企業があらゆる社内情報をデジタル化したときに起こる情報の持ち出しやすさに着目して、Internal Risk Intelligence(社内からの情報漏洩などの内部脅威検知サービス、以下「IRI」)というプロダクトを開発。そして現在は、生成AIやAIエージェントという3つ目の波が来ていて、社会でどう活用するか議論されている中で、「AIシールド」という守りの立ち位置で参入している。この戦略は常に一貫してきたわけです。
――エルテスは現在デジタルリスク事業以外にも3つの事業を展開しています。このあたりはどう見ていますか?

伊藤 エルテスの要として大切なのは、デジタルリスク事業自体の価値を高めることです。ソーシャルリスク領域はデジタルリスク事業の中心的な存在で、Webリスクモニタリングサービスなど、サービスのイメージもしやすい。一方で、インターナルリスク領域のIRIは、エンタープライズ向けのビジネスモデルですが、今の売り方を見ると、事業のフルポテンシャルが全然発揮できていなく、まだまだ伸びしろがあると感じています。事業利益でいえばすでにかなり高収益なモデルを作れているデジタルリスク事業に改めて注力していくことで企業価値を高めていけると考えています。
一方で警備やDX推進、スマートシティなどは、事業領域の拡張、売上の拡大には貢献してきたものの、シナジー発揮や利益貢献という意味ではこれから真価が問われるフェーズで、エルテスグループとしての価値をどう打ち出すかがグループ経営として取り組む課題です。
――“課題”という言葉が出ましたが、エルテスが変わっていくべきことはありますか?
伊藤 これまでは会社全体で売上を伸ばすことに意識が向いて、優先していた印象です。上場企業としては、売上も重要ですが、利益額や利益率にもっとフォーカスして、売上への意識を営業利益に落とし込み、さらに純利益に落とし、最後は1株あたりの利益(EPS)というところまで意識するように変わっていく必要があります。社内の制度・評価もきちんとそこに合わせ、同じ目線でコミュニケーションを活発化していくだけでも、相当変わるのではないかと見込んでいます。
エルテスとそこで働く人が成長するカルチャーを作るために
――エルテスで働く人の可能性についても聞いてみたいと思います。まず、エルテスで働く社員の方々の印象はいかがですか?

伊藤 良い意味で真面目な人が多いという印象ですね。駆け引きや腹の探り合いがなく、気持ちよく付き合いやすい人が多いのが非常に良い点だと思います。また、我慢強い人が多いという印象も受けました。一方で、皆さんの感じる課題や改善点はもっと声をあげてもいいと思うこともあります。
私としては、みなさんともっと会話をして、近い距離感で働きたいので、積極的に話しかけてくれると嬉しいです。
――そんな人材が多くいるエルテスが今後成長するうえで、社員に伝えたいことはありますか?
伊藤 社員一人一人が、「こうありたい」と思う理想を持ち、理想に対して現状がどうなのかを認識する。そして、そのギャップを埋めるために「自分はこう頑張っている」と言えるようになることで、個人も会社も大きく成長していきます。
また、自分の中だけで完結するのではなく、上司や周りにも共有し、理解してもらうことも重要です。フィードバックを求めるようなコミュニケーションができる関係を築くことで、人が成長し続けるカルチャーになるはずです。
これは個人だけではなく、会社にも同様のことが言えます。会社として目指すビジョンがあり、現状とのギャップを認識し、そのギャップをどう埋めるかを考える過程が、成長というストレッチに繋がります。会社全体でのこうした取り組みで、会社と人がともに成長していけるカルチャーを実現できると信じています。

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プロフィール
伊藤 豊(Yutaka Ito) |
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